第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「そんな訳にはいかない。こんなに遅くまで仕事を手伝わせておいて、もし君に何かあったらリヴァイに申し訳ないからね。」
ーリヴァイに申し訳ないー
それを言われてしまえば返す言葉もない。
「……す、すみません。ではお言葉に甘えて…。」
クレアはおとなしくエルヴィンにエスコートされるまま女子棟に向かって歩き出した。
静まり返っている長い廊下を2人で歩けば、窓から入る月明かりによって床には2人分の影ができる。
身長の高いエルヴィンの影に、身長の低いクレアの影。
横目で見るエルヴィンはミケ程ではないがそれでも高身長だ。自分より小さな兵士はこの兵団にはいないのだから当たり前といえば当たり前なのだが、エルヴィンの横を歩く感覚はリヴァイと並んで歩く感覚とはまったく違った。
そんな2つの影を揺らしながら他愛もない会話をして自室まで向かえばあっという間に到着だ。
「あの…わざわざ部屋の前まで、ありがとうございました。」
クレアが礼儀正しくお辞儀をすると、エルヴィンに肩を叩かれる。
「頭を上げなさい。礼を言わなくてはならないのは私の方だ。こんな時間まで手伝わせてしまった上になんだか情けない話もしてしまった。付き合わせてしまってすまなかったね。」
「いえ……そんな事ありません…またお手伝いが必要な時はいつでも声をかけて下さい。」
「ありがとう、リヴァイとハンジに怒られない程度にお願いするとしよう。じゃあ、おやすみクレア…」
「あ、お、おやすみなさい……」
いつもの優しい笑顔で答えたくれたエルヴィンに、クレアもつられるように笑顔で挨拶をする。
そして自室の扉をあけるために背中をむけたが、その時もう一度自分の名前を呼ばれたクレアは、思わず勢いよく振り返ってしまった。
「クレア………」
「団長…?!」
そこで自分の目に飛び込んできたのは少し切なく目を細めたエルヴィンの顔。
クレアはそのエルヴィンの、何かと葛藤している様な表情を見ると、身体が硬直し動けなくなってしまった。