第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「“そんなこと”ではないよ。クレアの淹れてくれる紅茶はどんな茶葉でも深く香り、とても美味い。」
エルヴィンはいつもと変わらぬ爽やかな微笑みをクレアにむけている。
しかしあんな話を聞いてしまったらもうこの微笑みの裏側に隠れているエルヴィンの想いが胸に刺さり、どうしても直視できなくなってしまう。
クレアは想う。
どうか、どうかこの目の前にいる勇敢な調査兵団の団長が、微笑みという仮面を被らなくても、心から、ありのままを受け止めてくれる人が現れて欲しいと……
エルヴィンは自らの意思で女性を側に置くことはできないと言ったが、その理由も含めて全てを受け止めてくれる人が現れたら、その時は全ての仮面をかなぐり捨ててその胸に飛び込んで行って欲しい。
エルヴィンは調査兵団の全ての責任をその両肩に背負っている。
だからこそクレアはそう願わずにはいられなかった。
「本当にそんな事で宜しいのでしたらいつでも……」
「ありがとう、そう言ってもらえると私も嬉しい。」
しばし2人で見つめ合うと、クレアは納得したかのように静かに頷いて見せた。
「さぁ、もう遅い。クレアのおかげでだいぶ仕事も片付いたから、今夜はこれでお終いにしよう。」
エルヴィンの机の上に目をやれば、確かに仕事はだいぶ片付いていた。
これなら明日エルヴィンが書類仕事に追われることもないだろう。
クレアはひとまず安心をすると、ティーセットを片付け始めた。
「遅くまで本当にすまなかったね。部屋まで送ろう。」
執務室を出て、エルヴィンが扉に施錠すると、クレアをエスコートする様に背中に手をまわして女子棟の方を向いた。
「あ、いえ、そんな……大丈夫です!!1人で戻れますので…」
あまりにもスマートすぎるエスコートに一瞬ドキリと心臓が高鳴った。