第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
少しだけ……
少しだけなら許されるだろうか……
「まぁ…確かに、辛いと思う時もあるさ……弱音を吐きたくなる時も、正直ゼロではない……」
「団長……」
なんでもいい……
一言でもいい……
エルヴィンはクレアから何か慰めになる様な言葉を言ってもらいたかっただけなのだが……
「あ、あの!!私に…私にできる事は何かないですか?!私1人ではたいした事はできませんが……団長の負担が少しでも軽くなるのでしたら…私、何でもします!!」
「クレア……」
両手の拳をかたく握り身を乗り出して必死に訴える小さな小さな調査兵クレア。
その小さな身体を活かした立体機動の腕前と討伐力は群を抜いている。
しかし、このクレアの欠点は自身の容姿を含めて全てにおいて無自覚な所だ。
あのリヴァイが気を揉むのもよく分かる。
こんな状態で、こんなクレアから“何でもします”などと言われてしまえば、弱った並の男なら即押し倒してしまうだろう。
それ程の破壊力を持ったこの鈍感無自覚奇行種は、今まさにエルヴィンの理性のタガを壊そうとしていた。
“何でもします!!”
その言葉が何度も都合のいい解釈でエルヴィンの脳内でリフレインする。
何でもとはなんだ……
リヴァイと恋仲でありながらも自分のためならその身体を差し出してくれるとでも言うのか……
やめてくれ……
そんな真っ直ぐな視線で見つめないでくれ……
そんな、男の理性をブチ壊すような事は言わないでくれ……
エルヴィンは必死にかぶりをふると、なんとか平静を装いその口を開いた。
「情けない弱音を吐いてすまなかったなクレア。そこまで言うなら、たまには紅茶を淹れにきてくれると私は嬉しい。その方が仕事もはかどるからな。」
「そ、そんな事で宜しいのでしたら……いつでも……」
キョトンとしているクレアにエルヴィンはその頭を数回撫でながらいつもの爽やかな微笑みで返した。