第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
現に、3月の壁外調査でクレアが行方不明になった時、いくら高度な医療技術を持っているとはいえ、末端の兵士を、自身の立場を考えずに自ら探しに行くことなど、選択したくてもできなかっただろう。
また同様に他の誰かに森の中まで探しに行けという命令も下せるはずなどなかった。
あの時のリヴァイの判断は当然褒められたものではないが、クレアは奇跡的にも生きて帰還できたのだ。それは、自分だったら絶対にできなかった事だ。
そう考えると、クレアもマリーと同様、リヴァイと結ばれるのが1番だったのだ。
「そんな……」
クレアの瞳は、あと数回瞬きをしたら涙がこぼれてしまいそうな程にうるんでいた。
「クレア…そんな顔をしないでくれ。これは私の選択した人生だ。私はどうしても壁の外、巨人の謎をこの命が尽きる前になにがなんでも知りたいんだ。その信念を貫くには捨てなくてはならないモノもあるんだよ。」
「団長……」
「私がこの身1つ差し出せば多額の寄付金を得られる。それで壁外調査へ出れるのならば何も問題はない。巨人の謎を解明するにはとにかく壁外調査を行わなければ何も分からずじまいだ。その代わりに、私は特定の女性を側に置くことはできない。こんな事を理解させるのも酷なことだし、相手が兵士であれば団長である以上自身の立場を捨てた行動は取れない。また一般の民ならば、なおさら重荷を背負わせてしまう。どっちにしても相手を苦しませてしまうんだよ。」
「そ、そんなのって……辛すぎます……」
「クレアは優しいな。だが、大きな事を成し遂げようとするには捨てなければならないモノも沢山あるんだ……」
そう……兵士になってから……分隊長になってから……そして団長になってから……捨てなければならないモノの連続に、別れの日々だ。
いつまでたっても慣れることではないが、いつしかそれがもう当たり前の日々になっている。
だからだろうか……
当たり前になってしまっていた事に、こんなにも心を痛めて瞳を潤ませてくれるクレアの姿をみたら、エルヴィンは少しだけ、弱音を吐きたくなってしまった。