第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「では今冬の壁外調査は……」
「あぁ…おそらくは春まで延期になるだろう。」
…きっと王都の会議でも色々と奮闘してきたのだろう。税金の分配の割合が変わらない上に、好きでもない未亡人のお相手にまわってきたとなれば、どんな屈強な男でも精も根も尽き果ててしまうのは当然だ。
その上、今冬の壁外調査は見送りの可能性が高いのだ。
その身1つで調査兵団の全責任を負っているエルヴィンの裏の姿を目の当たりにしたクレアは、胸の奥がズキンと痛んだ。
「団長……あの…、、、」
「ん?なんだ?」
「以前、団長は私に言いました……リヴァイ兵長には只々側にいてくれる存在が必要だと……でも、今の話を伺う限りだと、団長にもそんな方が必要なのではないですか?団長が背負うモノは、多すぎて、大きすぎます……団長にはいらっしゃいますか?ただ側にいてくれるだけの方は……」
大きな蒼い瞳にうっすらと涙を溜めたクレアの口からはエルヴィンを軽蔑する様な言葉は出てこなかった。
「いや……生憎そういった存在は今の私にはいない。」
「心に想う方も…ですか?」
心に想う方……か……
エルヴィンは痛い所を突かれてしまい、思わず苦笑いをしてしまう。
「心に想う女性はいなくもなかったよ。今まで生きてきた中で、1人……いや、2人……いた。でも残念な事にその2人にはもっと相応しい男がいたんだ。だから身を引いた。……いや、違うな、自身の野望を選択するために諦めた、と言った方が正しいだろう……」
1人目は行きつけの酒場で働いていたマリー……
でも、マリーにはナイルがいた。調査兵団への入団を辞め憲兵団に行くことで彼女を守るという選択ができたナイル。彼女にとってはナイルと結ばれるのが1番幸せだったはずだ。
そして、2人目……
それは今自身の目の前で、真剣な眼差しを向けている彼女…クレアだ。
白状すれば、クレアを側に置いておきたい、手に入れたいと思った事が今までに何度もあった。
だが、自分は調査兵団全兵士の命の責任を負っている団長という立場。
無理矢理に自分のモノにしようとしても、クレアを幸せにしてやれる保障などありはしなかった。