第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「団長……これって……」
「クレアの想像の通りで間違ってはいない。莫大な遺産を遺して夫に先立たれた貴族の未亡人は、その身体も金も、持て余してる者が多い。そんな貴族の未亡人のお相手をすると、決まって多額の寄付が得られるんだ……それも1回だけではない。出向いた数だけ寄付をしてくれる……」
「で…では…それが……」
「そうだ、その金が兵団の活動資金の足りない部分を補っている。」
「そ、そんな……」
「身も心も寂しい未亡人の弱い所に漬け込んで、多額の寄付金を集めている。それが私の裏の顔だ。」
エルヴィンはシャツのボタンをとめながら自虐的に微笑んだ。
この事は兵団内でも上層部の者しか知らない。
当然クレアも知らなかったはずだ。
「では、今回内地に行かれたのも……」
「王都での会議ももちろんあったが、しっかり“資金集め”もしてきたさ……どういった訳か、私は寂しい貴婦人にはモテるようでね。」
資金集め……エルヴィンから感じた違和感は、今しがた男女の交わりを終えたばかりの移り香だったのだ。
「だが、流石に1日に3件もまわるのは骨が折れた……それで逃げるように帰ってきたというわけさ。」
「団長……」
「こんな話、するつもりはなかったんだが……よっぽど疲れていたのかな?愚痴るような話し方をしてしまったな。すまない。クレアはこんな私を軽蔑しただろう?」
軽蔑…?
何故エルヴィンはそんな事を言うのだ。
「……軽蔑なんて、そんな事思いません。兵団のためにそこまで身体を張って……団長は辛くないんですか?好きでもない女性を抱いてお金を貰うなんて……」
「…まぁ、確かに気持ちのいいものではないが、こうでもしなければ壁外調査もできなくなってしまう。実際に、今年の冬は雪が少ないという予報がでたとしても、実施できそうにないんだ。夜営ができる程の資金を冬までに集めるのは流石に難しいからね。」
エルヴィンは少し悔しそうに呟いた。