第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
とある違和感……
エルヴィンに紅茶を出す際に感じた微かな“女”の香り。おそらくは香油や香水の類のものだろう。
それも一種類ではない。
爽やかな柑橘系の香りに、甘ったるいローズの香り、それにスッとしたミントの様な香り……
色んな香りが入り混じっていて、一瞬クレアは戸惑ってしまった。
エルヴィンは泊まりがけで訓練兵団や内地に行っていたのだ。娼館に寄ってから帰ってきたのかとも思ったが、表情を見る限り本当に忙しく仕事をこなしていたと伺える。
ではこの入り混じる様な女の香りはなんなのだ。
普段のエルヴィンからは特に香るものを感じたことがなかったため、クレアが不思議に思うのも無理はなかった。
しかし、それはエルヴィンの行動に対して深く入り組んだ話になる為、クレアは気付かないフリをして紅茶を出すと、自身は応接セットのソファに腰掛け仕事を手伝った。
シンと静かな空気が流れる執務室にパラパラと紙の擦れる音だけがヤケに目立つように耳に入ってくる。
普段のリヴァイとの仕事ではどれだけ無言が続こうと、何も気まずく思った事などないが、エルヴィンに対してアレこれと詮索してしまう様な考えが頭を巡ると、なんとなくこの無言の状態が気まずくなってしまった。
何か話題にできる事はないだろうか……
クレアは手を動かしながら必死に頭を捻らせた。
「あ、団長…そういえば、訓練兵団への勧誘講義はいかがでしたか?調査兵団に興味を持ってくれそうな訓練兵はいましたか?」
捻りに捻った結果、なんとも無難な会話を投げかける事に成功した様だ。
「そうだな…103期もそこそこ調査兵を希望する訓練兵は多かったが、104期もなかなかやる気に満ちた兵士が多くて期待はできそうだったな。」
「そうですか…お忙しい所に団長が自ら講義に出向かれたのですから、多くの兵士に入団して頂きたいですね。」
「あぁ、そうだな。」
エルヴィンはいつもの爽やかな笑顔をクレアに向けた。