第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「団長……こんな時間に…今戻られたんですか?」
「そうなんだ。帰るのは明日でもよかったんだが、この通り、やる事が山積みでね。早々に戻ってきたんだ。」
ここ数日、エルヴィンは調査兵団を留守にしていた。
来年入ってくる104期の訓練兵の勧誘講義や、王都での報告や会議等、色々とたてこんでいたのだ。
「え…と…まだこれから仕事をなさるんですか?」
エルヴィンは両腕で書類の束を抱えていた。
「全部ではないが、少し切りのいいところまでやってしまうつもりだ。でないと明日が恐ろしい。」
「そ…そんな……」
疲れている筈なのにエルヴィンはクレアに柔らかい笑顔で答えた。
「団長!私も少しお手伝いします。その方が早くお休みになれますよね?」
「確かにそうだが……クレアも訓練にハンジの仕事で疲れてるだろう。もう自室に戻って休みなさい。」
本当はクレアと正当な理由で2人きりになれるチャンスだったのだが、翌日の訓練に障ってしまっては大変だ。
ここは団長としての理性がきちんと働いた様だ。
「そ、そんな訳にはいきません。団長に倒れられてはそれこそ兵団の指揮に関わります。ご迷惑でなければ、手分けして終わらせてしまいましょう?」
「そうか……すまないな。それではクレアの好意に甘えるとしようか…」
しかしこんなクレアから無邪気な笑顔で自身の身を案じ、手伝いをと言われてしまえば断る理由などもうどこかへ飛んでいってしまう。
エルヴィンはクレアの押しに素直に負けることにすると、自分の執務室へと2人で向かっていった。
「すぐに紅茶の用意をしますので、お待ち下さいね。」
「あぁ、すまない。」
クレアは手早くヤカンに火をつけると、紅茶の準備にとりかかった。
少し待てば、執務室の中はフワリと奥深い紅茶の香りでいっぱいになる。
「お待たせしました。」
クレアはいつもの様に紅茶をだしたつもりだったが、ふと、とある違和感に気づく。