第39章 嗚呼、我が愛しき分隊長
「あ、ありがとうございますミケさん!!当日は皆様に美味しいと思って頂けるような料理を一生懸命作りますので…どうか楽しみにしていて下さい。」
「あ、あぁ……」
小さな小さな柔らかい手でミケの手を握り満面の笑みを向けてクレアは礼を言った。
高身長で体格が良すぎるせいか、匂いを嗅ぐという特殊な趣味のせいか、なかなかとっつきにくいと思っていたミケであったが、思い切って話掛けてみればなんとも気さくで優しい上官ではないか。
フレイアとリリアンが頼りになるかっこいい分隊長だと言っていたのも頷ける。
クレアはつい嬉しくなり硬貨を握ったままミケの手をブンブンと上下に振って無邪気に喜びをあらわにしてしまった。
ブンブンと……
上下に……
上下に……
上下に……
ジョウゲニ……
「………………………」
クレアによって握られた手を上下に振られたミケはやっとのことで、散らした先程の煩悩の熱が再び燻り、なんとも言えない危機感にかられた。
こんなに小さくて、柔らかくて、白いクレアの手。
とても壁外調査で巨人のうなじを削いでいる兵士とは思えない。
しかも、ミケはどちらかと言えば入団したての気鬱なクレアの印象が強く残っていた。
だからこそ、この屈託の無い笑顔にやられてしまったのだろう。
ミケの煩悩の妄想は自身の意思とは反対に、みるみると加速し止まってくれそうにはなかった。
やばい……
このままではこの柔らかい手で自分の男の部分を握らせるという破廉恥極まりない妄想が爆発してしまいそうだ。
だからといってこの心地良い手を振り払うことも、この眩しい笑顔を曇らせる事もできそうに無い。
絶体絶命のピンチだ。
誰か、誰でもいい……
助けてくれ……
ミケは心の中で声なき声で叫んだ。
──スンスン──
「!!?」
ミケの願い通り、助けがやってきた様だが、それは今のこの状況ではあまり都合の良くない人物だ。
誰でもいいわけではなかったか…
ミケは誰でもいいと願った自分に盛大なため息をついた。