第39章 嗚呼、我が愛しき分隊長
「え?えーと……」
お金なら既にエルヴィンから貰っている額で十分足りていた。むしろ、余るくらいだ。勿論だがこれ以上の金額は受け取れない。
「どうしたんだ?」
なかなか受け取ろうとしないクレアにミケは問いかける。
「実は、エルヴィン団長からも準備金を頂いてしまっているので、それ以上受け取るのはどうかと……」
クレアは申し訳なさそうにミケを見上げた。
「そうか、なら逆だ。エルヴィンもお前もモブリットも金を出したのに俺だけタダ飯タダ酒を飲み食いする訳にはいかない。財布が部屋だから小銭しかないが持っていってくれ。」
ミケは小銭と言っているが渡された硬貨には金貨も入っており、合計するとなかなかの金額になりそうだった。
「そ、それでしたらありがたく受け取りますが……なんだか私、ものすごいプレッシャーです。」
「プレッシャー?何がだ?」
「これだけの金額を頂いたのであれば、恥ずかしい料理は作れません!!当日までに少し勉強をしないと……」
「そうか?そんな事しなくたって大丈夫だろう。フレイアとリリアンがこの間言ってたぞ。クレアの作ったジャムが天下一品の美味さだったと。」
「え?!」
ミケの言葉に思わず耳を疑ってしまった。
「あの日の2人の訓練の調子ときたらピカイチだったな。心配しなくてもお前の料理の腕は信用してるからそんなに肩張らなくていい。」
ミケは少し口元を緩ませるとクレアの肩にポンと手を置いてやった。
「そ、そんな事をあの2人はミケさんに言ってたんですね…なんか恥ずかしいです……」
「壁外調査前で少し気持ちが沈んでいたリリアンがその日からまた明るく訓練をするようになったんだ。俺も、少なからずクレアの料理に興味がある。楽しみにしているよ。」
すると持っていた小銭をクレアの手のひらに置いてやった。
チャリンという音と同時にクレアはミケの手を包むように握ると、満面の笑みで礼を言った。