第39章 嗚呼、我が愛しき分隊長
しばしお互い無言で見つめ合ってしまった。
「おい、クレア?何か俺に用事があったんじゃなかったのか?」
しかし、先に沈黙を破ったのはミケだった。
なんとか下半身に集中しだしてしまった熱を分散させるように必死に別の事を考えながら話しかける。
「す、すみません!!そうです。ミケさんにお話したいことがあるんです!!」
そこでクレアもハッと我に返り思い出すと、ハンジの事を話し始めた。
「……なる程。ハンジの誕生日パーティーか。面白いな。」
ミケは顎ひげに触れながらフンっと笑ってみせた。
「エルヴィンから聞いていたぞ。昨年は巨人の模型を作ってアイツらに食わせたらしいな。」
「あ、あれは……お酒のせいというか…不可抗力というか……団長や兵長にまであんなに食べさせる予定はなかったのですが…」
「今年もやるのか?巨人の模型は?」
招待されるのは悪くなかったが、やはりミケもそこが気になった様だ。
「ハンジさんが絶賛してくださったので、今年も作りますが、作るのは1つにして、後は他の料理を作る予定です。」
「そうか…」
それを聞き一先ず安堵をする。
昨年の惨状を直接見たわけではないが、ミケだって巨人など食べたくないのが本音だ。
「それなら喜んで招待を受けよう。」
「ありがとうございます!!モブリットさんは既に美味しいお酒を手配しているそうです。当日は私も腕を振るいますので、楽しみにしていてください。」
クレアが敬礼をしてその場を去ろうとすると、ミケはちょっと待てと呼び止めた。
「クレア、ちょっと待て…」
「ミケさん……?」
クレアが立ち止まると、ミケは眉間にシワを寄せながらジャケットやズボンのポッケのあたりを無造作に叩き、その手をクレアに差し出した。
「こんなもんですまないが、準備金の足しにしてくれ。」
ミケの手から差し出されたもの。
それはポケットに入っていた硬貨だった。