第38章 “キミ”という存在
「ね、特に何も面白くないでしょ?」
「いや、そんな事はないさ。そしたら今度は俺から質問をさせてもらってもいいかい?」
「べ、別に構わないけど……」
かれこれ話し出して20分以上はたっただろうか?
いつまでたっても“行為”を始めようとしないモブリットにタリアは疑問符だらけだった。
「タリア、好きな色は何色だい?」
「色?突然どうしたの?」
「俺が知りたいんだ。教えてくれ。」
「え、えーと、真紅、かしら。」
「そうか、真紅か。じゃあ好きな食べ物はなんだ?」
「えぇ?!そ、そうねぇ……チーズを使った料理が好きよ。」
その後もモブリットは好きな花は、好きな酒は、好きな季節はなど、あれこれと色んなことを聞いてきて、タリアを質問攻めにした。
そんな事をしていたら2人が部屋に入って小一時間が過ぎようとしている。
深みのある真紅
チーズを使った料理
向日葵の花
辛口のシャンパン
命が芽吹く春
空高く羽ばたく鳥
軽快なマズルカ
洗濯したてのシーツ
自分で編んだかぎ針編みのショール
質問をする度に1つ、また1つと知ることができるタリアの好きな物。
すると、モブリットは不思議な感覚が芽生えてくるのに気付く。
今まではハンジとタリアを重ね合わせる様に見ていた。それもそのはず、ハンジへの抱えきれなくなった想いを発散するために娼館まで足を運んでいたのだ。
しかし、タリアの生い立ちを聞き、好きな物を知る度に、重ねていた2人の姿が少しずつズレ始めたのだ。
ハンジの好きな色は紫だ
好きな食べ物はクレアが作った料理
好きな花はシオンの花と言っていた
酒はアルコール度数が高ければ割と何でも好きで
好きな季節は秋だ
好きな動物は愛馬であるランティス
音楽には特に興味がない
好きな物は巨人に関する事全てで
お気に入りの物は集めた本全てだ
生い立ちも、好みの物も、まったくハンジとは異なるではないか。