第37章 今生きて、此処にいる
「アンドレ、顔を上げて。分かってくれたならもういいわ……」
「クレアさん……」
昨夜は酷い行いをしたにも関わらず、クレアに怯えた様子は伺えず、いつもの笑顔を見せてくれた。
その慈悲深い言葉と柔らかな笑顔に、アンドレの心臓は申し訳なさが込み上げ切なくギュッと痛んだ。
「……あ、ありがとう…こざいます……」
クレアは立ち直ってくれたアンドレに一安心していたようだが、ツンと冷たい態度で書類に目を通しながら話を聞いていたリヴァイはパサっと机に書類を置くと、片手で頬杖をつきながらギロリとアンドレを睨んだ。
「おい、アンドレ。」
「は、はい…!」
「お前が心を入れ替えて訓練に励むと言うなら文句は言わん、好きにしろ。だが、俺はクレアの想いを裏切った事はタダでは許さないと言ったが、覚えているか?」
「は、はい…覚えております……」
その言葉に執務室内の雰囲気が一気に凍りつく。
「へ、兵長…いったい何を……」
「これは俺とアンドレの話だ。クレアは黙ってろ。」
「………………」
確かにあの時リヴァイは“タダでは許さない”と言っていた為、クレアはそれ以上は口を挟むことはできなかった。いったいリヴァイは何を言うつもりなのだろうか。
クレアの瞳が不安に揺れる。
リヴァイはイスから立ち上がり、クレアとアンドレの間に立つ。
身長差があるため、リヴァイは腰に手を当てアンドレを見上げてはいるが、そのただならぬオーラをまとっている立ち姿は、アンドレを見下ろしているようにも見えた。
「そうだな…まずは1ヶ月、朝の便所掃除だ。言っとくがぬるい事しやがったらやり直しだからな。それと、ダスゲニーの馬房掃除も1ヶ月。それと、予備場の馬具倉庫の掃除と兵舎まわりの草むしり、この2つは一カ月後までに終わらせろ。」
「あ、あの……兵長…」
アンドレは予想とは違った発言に言葉を詰まらせてしまった。
アンドレは、もっと懲罰的な、制裁の様な事を考えていたため、リヴァイの発言の内容に少し拍子抜けをしてしまったのだ。