第37章 今生きて、此処にいる
あの時、クレアが何も言わなければアンドレはエルヴィンの所に連行され、退団命令となっていただろう。
だが、それを望んでなかったクレアが、あの時発することができた言葉は、リヴァイの名だけだった。
しかしリヴァイはクレアが名を呼んだ声と、その表情で全てを感じ取り、アンドレをエルヴィンの元に連行することはしなかったのだ。
たったそれだけの事で自分の気持ちを汲み取り行動にうつしてくれたリヴァイに、クレアは深い感謝と喜びで再び涙を流した。
「……へいちょう……ありがとうございます……」
「俺は何もしていない……ただお前のしてきた事を無駄にしたくなかっただけだ。」
「それが、嬉しかったんです……」
クレアはリヴァイの胸元に顔を埋めて涙を拭き取ると、顔を上げはにかむように笑ってみせた。
「だが、あいつが自主退団を申し出てきたら俺は止めないからな。」
「分かってます。でも、それは大丈夫だと思います。兵長のお言葉、“今生きて此処にいる意味を考えろ”は、私の胸にもグサリと響きましたから。アンドレはきっと立派に立ち直りますよ。」
少し気持ちが落ち着いたのか、震えと涙が止まってきた。
「だといいがな。……ほら、少し落ち着いたなら風呂に入ってこい。返り血が乾いてひどいことになってるぞ…」
リヴァイは立ち上がると、クレアにタオルと着替えを手渡した。
「あ、ありがとうございます…」
「もう遅い、今夜はここに泊まっていけ。」
「わ、わかりました…!」
今から自室に戻ってフレイアを起こしてしまうのも、気が引けたのだろう。少し顔を赤くしながら素直にリヴァイの提案を受け入れると、クレアはシャワー室へと入っていった。
そして、交代するようにリヴァイもシャワーを済ませれば、2人で一緒にベッドに入る。
小さな身体を力いっぱい抱きしめればキンモクセイの香りがリヴァイを包む。
「ん……んん……」
キンモクセイの香りに引き寄せられる様にクレアの唇を奪えば、その漏れる吐息に、リヴァイはさらに力強く抱きしめてしまった。