第37章 今生きて、此処にいる
一瞬でも自分の家族を見捨てるような
一瞬でもクレアの励ましを罵るような
一瞬でも仲間達の死を無駄死ににしてしまうような
行為をしてしまった自分にアンドレは心から悔いた。
だがそれと同時に段々と鮮明になるのは自身のこれからの事。
もう1度よく思い出してみる。
兵士になると決め、家を出て行く時に見せた両親と弟妹の顔。
くじけそうになった時に励まし、指導してくれたクレアの優しさ。
その心臓が止まる間際に自分に残した班長の言葉。
ここまで思い返せば自分に課せられた使命など明白であった。
自分の身を案じてくれてる家族のため、優しく見守ってくれたクレアのため、志半ばでその命を散らした仲間達のため、自分は止まっていてはいけない。
自分と同じく生き残った仲間たちと、次の壁外調査へ人類の希望を繋げるのだ。
「すみません……すまなかった……」
アンドレはリヴァイやクレア、そして立派に心臓を捧げ空へと旅立った仲間達に心からの謝罪の言葉を絞り出すと、自身の顔を濡らしている涙と血液を無造作に拭い意識を手放すようにベッドへと倒れ込んだ。
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リヴァイは自室にクレアを連れてくると、ベッドに座らせた。
「クレア…大丈夫か?」
クレアはまだ少し肩を震わせながら涙で頬を濡らしていた。表情も強張り顔色も少し悪い。
よっぽど怖い思いをしたのだろう。
「………うっ……うぅ……す、すみません……」
「だから、お前が謝ることはないと言っただろうが…」
リヴァイはクレアの隣に座ると、肩をだいて唇で涙を拭ってやった。口内に入ってくるクレアの涙の味は、溢れ出た感情が複雑に溶け込んでいて、切なくなる程に胸をギュっと締め付けられた。
「では…どうしてアンドレの事を団長に報告しなかったんですか……」
「それは……お前が一生懸命面倒みてきた新兵の1人だからだ。まだ更生の余地があると判断した。それに、そうして欲しいとお前が訴えている様にも見えたんだが?違うか?」
「へ、へいちょう……」
クレアは涙をこぼしながら大きな蒼い瞳でリヴァイを見つめた。