第37章 今生きて、此処にいる
自分には守りたい家族がいた。
そのために守れる力が欲しかった。
手塩にかけた息子を壁外調査のある調査兵団など、両親は断固として反対をした。
それでも、自分1人の力なんて取るに足りないモノかもしれないが、両親を、弟や妹達を守れる兵士になりたかった。
だから自分は、両親の反対を押し切って兵士の道を選んだのだ。
だが現実はあまりにも過酷で残酷だった。
調査兵団とは、壁外調査とは、自分の命ばかりでなく、共に戦う兵士の命の生き死にも大きく関わってくる。
自分だけ助かればいいものではない。
どれだけの命が目の前で消えようとも、その光景がどれだけ残酷なものであっても自身の手が、脚が、心臓が動く限り巨人のうなじ目がけて飛んでいかなければならないのだ。
目の前の兵士が志半ばで息絶えれば、その意志を継ぎ、自分が代わりとなって討伐をしなくてはならない。
それが自由の翼の紋章を纏った調査兵団の兵士だ。
エルヴィンやハンジやミケやリヴァイはもちろん、まだ2年目のクレアだって、そうやって壁外調査を乗り越えてやってきたのだ。
それが今の自分はなんてザマだ。
初めて見る巨人に脚がすくみ、まったく動くことができなかった。メグの方がはるかに勇敢だった。
それでも、クレアは自分を責めようとはしなかった。前を向いて欲しいと、力になると、散々自暴自棄な事をを言ったにも関わらず、優しい眼差しでその手を差し伸べてくれたと言うのに。
なんて事をしてしまったのだ。
クレアは何1つ間違った事など言ってなかった…
アンドレはやるせない悔しさの中今一度リヴァイの言葉を思い出す。
──今生きて、此処にいる意味を考えろ──
その言葉は、ずしりと心臓に重くのしかかる。
今生きて、此処にいる意味……
それは決して自暴自棄になって乱暴をはたらく事ではない。
調査兵団に絶望をして逃げ出す事でもない。
死んでいった仲間たちの死を無駄死ににする事でもない。
「クレアさん…兵長…みんな……」
答えは難しくても、実にシンプルだ。
正気に戻れば戻る程、アンドレは自身の目から溢れ出る涙を止めることができなかった。