第37章 今生きて、此処にいる
「フザケた真似してくれやがったな!!」
──ドンッ──
リヴァイはツカツカとアンドレに近づくと思いっきり頬を殴り、ベッドから引きずり降ろした。
「ぐぅっ…………す、すいません!!兵長……!!俺…俺…」
アンドレは鼻血を吹き出し、流れ出る血液は乱雑に着たシャツと、ボタンを閉めずにはだけたままの胸元をみるみると赤く染めていった。
床に情けなくもへたりこんだアンドレに、乱暴に服を破られたクレア。
両方を見やると、下半身にはまだ衣服が着用されていた。おそらく“最悪の事態”にはなっていないのだろう。
だからと言ってリヴァイの怒りが収まるわけではない。
「お前は壁外調査前に散々クレアを追っかけるように引き留めて、色々と相談に乗ってもらってたんじゃねぇのか?」
「そ、それは……」
「その恩をこんな形で返すのがお前の礼儀なのかよ?!!」
リヴァイはアンドレの腹部にブーツのまま片脚を乗せると、身をかがめて胸ぐらを思い切り掴んだ。
「ち、違います…!!」
「あぁ?!違うって言うならこれはいったいどういう状況だ!!」
「へ、へいちょう…!!」
「……クレア…?!」
再び殴りかかろうとした所でクレアが涙をこぼしながらリヴァイの名を呼んだ。
その蒼く揺れる瞳は、悲しみと、葛藤と、懇願するような想いで溢れていた。
「…………クソッ!!」
リヴァイは振り上げていた拳を一旦降ろす。
複雑な想いで揺れるクレアの瞳が訴えている事を理解したリヴァイは、感情のままに2発目の拳を振り下ろすことができなかった。
クレアはきっと、アンドレは優秀な新兵として立派に帰還することを心から願っていたのだろう。
その信じていた心を裏切られた悲しみと、許せない気持ちと、それでも退団させたくない、辛くともこの試練に打ち勝ってもらいたいという想いが複雑に絡み合い、葛藤しているのだろう。
リヴァイはそう理解していた。
しかしそれではリヴァイの想いも葛藤に揺れる。