第37章 今生きて、此処にいる
「どんな形であれ貴方は生き残ったんだから、そんなに命を軽んじる事を言わないで!!」
「俺は!あれだけ訓練を積んだのに何もできなかったんです!!」
アンドレの表情は絶望しきっていた。
「ここで嘆いても何も変わらない。失ってしまった命を無駄にしないで。生き残った者達は後ろを振り返らず、前だけを見てつき進むという使命があるの。それが亡くなった兵士達のために唯一私達ができることなの!」
「そんな風にすぐに切り替えられれば誰も苦労はしません!こんなやるせない気持ち、訓練兵時代から優秀なクレアさんには分かりませんよ!!」
クレアの言ってる事がきれい事にしか聞こえないのだろうか。アンドレはどんどん自暴自棄になっていく。
「アンドレ……!」
こっちが感情的になってはダメだ。
そんなこと重々承知しているが、アンドレはあれだけ真面目に訓練に励んでいたのだ。
こんな所で立ち止まらないで、なんとか正気に戻って前を向いてもらいたい。
そんな一心でクレアの声もつい感情的になってしまう。
「そ、そんなことない…私にだって、救えなかった命に助けられなかった命、たくさんあった。だからアンドレ達の気持ち、分からないなんてことない。」
初陣の時には救援に向かったが助ける事ができなかった兵士、その後の壁外調査でも救う事のできなかった命は沢山あった。
「どんなに討伐ができたって、自分の無力さに嘆きたくなる時は誰にでもある!私だってあった…でも何度も頑張って乗り越えたの!」
「そんなの嘘だ!気休めなんて聞きたくありません!」
「気休めなんて言ってない…私だって…いいえ、みんな同じ苦しみを乗り越えて今を生きてるの。アンドレだって乗り越えられる。私も力になるから、お願い…そんな自暴自棄にならないで!」
「………………っ!!」
そう言ってクレアがイスから立ち上がり、アンドレの肩に片手を置いて苦痛に歪むその顔を覗きこんだ時だった。
──グイッ──
「キャアア!!」
肩に置いた手を掴まれたと思ったら、そのまま力任せにクレアはベッドに引きずり込まれアンドレに押し倒されてしまった。