第37章 今生きて、此処にいる
「はい、もちろん大丈夫です。」
すると医師は数種類の薬を調合したものをいくつか用意し、紙に何やら書き込むと、それをクレアに手渡した。
「クレアくんがリヴァイ兵長の部屋に行ってる間に無事に帰還した新兵達の様子を見てきたんだが、ちょっと様子が気になる新兵が何名かいてね。」
「気になる…ですか?」
「うん…明日も医務室に来るようには言ったんだが…ちょっと精神的ショックが強く見られてね。今夜しっかり眠れるように精神安定剤と睡眠薬を出すことにしたんだ。」
「そ、そうだったのですね。」
紙を見ると、女兵士2名、男兵士3名の名前が書かれてあり、その中にはリリアンとアンドレの名前も入っていた。
「すまないが、しっかり服用を見届けてもらって、明日必ず医務室に来るようもう一度クレアくんからも伝えてもらえると助かるよ。」
「分かりました。」
「終わったらそのまま上がってくれて構わないからね。」
医師は少し申し訳なさそうに、けれどもクレアの助けに救われたと安心した様に、微笑みながら出ていくその背中を見送った。
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クレアは医師からの指示通り、名前の書かれた兵士の部屋を訪れては事情を説明し、薬を服用させた。
やはり、間近で人間が四肢をもがれ、握り潰され、半身を食いちぎられながら食われゆく光景など、ショック以外の何ものでもない。
もちろん、クレア達だって同じ経験を乗り越えて今がある。彼らも調査兵団としてやっていくと決めたのなら乗り越えなければならない試練の1つだ。
生きて帰還できただけでも立派なのだが、調査兵としてやっていけるかはここが正念場だろうか。
クレアは落着いて眠れるよう、新兵達の心の傷に寄り添いながら一生懸命フォローをした。
4人目の対応が終わると、最後に紙に書かれていた名前はアンドレであった。
アンドレは無傷だったためか、クレアの治療場に訪れる事はなく、朝厩舎へ向かう姿を見送ったのが最後だった。
せっかく無傷で帰還できたというに…きっと班員を失った事に心を傷めたのだろう。
クレアは心配な気持ちで胸をいっぱいにしながらアンドレの部屋へと向かった。