第37章 今生きて、此処にいる
「それなら頼む……」
その素直な返答に少し安心すると、クレアはあれこれと準備を始めた。
「では腕を出してください。縫合の前に点滴をします。」
「点滴?そんな重症ではないぞ。」
「ですが出血のせいか顔色が悪いです。失った血液を補充する訳ではないのですが、点滴をすると吐き気や目眩がだいぶ落ち着きますよ。」
「そうなのか…?」
「はい、一緒に痛み止めや化膿止めの薬も入れておきますね。痛みも和らぐと思います。」
すると手際よく薬を調合して点滴の袋を医務室から持ってきた点滴スタンドにヒョイっとかけると、クレアはリヴァイの前に膝を付き腕を取った。
「少しチクッとしますよ。じっとしていて下さいね。」
「ハッ、誰に言ってやがる。」
まるで注射を嫌がる子供を相手するかのような言い方にリヴァイは思わず悪態をついた。
「フフフ、すみません。」
顔色の割には悪態をつく位の余裕はある様だ。
「ここに刺しますからね。」
腕を何度か撫でて血管の場所を見定めると、クレアは躊躇なく持っていた針を刺し、点滴の液をリヴァイの体内に送り込んだ。
「これで終いか?呆気ないな。」
点滴をするのは初めてだったリヴァイは思わず素直な感想が漏れてしまった。
しかし人間の皮膚の下に目まぐるしくめぐっている血管の中の1つを瞬時に選んで針を刺すなど、余程の経験や知識がないとできるものではない。
それを呆気なく終わらせてしまう程の技術を持ったクレアは、やはりこの兵団にはなくてはならない存在なんだと改めて思い知らされる。
「呆気なかったですか?でもこれで終わりではないですよ。きちんと液が体内に入るまでじっとしていて下さいね。次は縫合処置をしますので。」
クレアは針を刺したリヴァイの腕に絆創膏をはり、包帯で固定すると、今度は縫合に必要な道具をカチャカチャと並べ、準備を始めた。
そしてリヴァイの前に立ち少し屈んで頭に巻いた止血帯を外そうと手を伸ばすが、まさかのその手を掴まれてしまった。
「へ、兵長??」
いったいどうしたのだろうか?