第36章 奇行種と新兵たちの初陣
「……またアンドレに声でもかけられてたのか?」
「え?」
「今朝は俺の方が早かった。」
「あ、あの……」
まさかの鋭い指摘にクレアは思わず口籠ってしまう。
しかしリヴァイは知っていた。
クレアに悩みを相談してくる兵士の中でアンドレが1番多く声をかけてきているの事を。
時には訓練場のベンチで、時には立体機動装置をつけて居残り訓練をしたりなど、よく2人の姿を目撃していたのだ。
決して面白くはなかったが、新兵達には1日でも早く使える兵士になってもらわなくては困る。
リヴァイはアンドレがクレアに変な気を起こさぬよう、目を光らせながら見守っていたのだ。
「あの…偶然廊下でアンドレとすれ違いました…昨夜はよく眠れなかったようで。厩舎へ行くと言ってましたが……」
「そうか……」
静かに呟くと、終わらせた書類を1つにまとめて立ち上がる。
そして机の上まで持っていき、再びソファに戻ってきた。
「アンドレはずいぶんとお前を頼りにしてたみたいだが、壁外調査では使えそうか?」
「訓練を見る限りでは実力をつけていると思います。傾向も討伐補佐よりは、積極的に討伐を買って出るタイプですし。ですが、彼はローゼ出身なので巨人を見るのは今回が初めてです。本人もその事をだいぶ心配していました…」
当たり前だが、訓練と実戦では状況が大きく変わる。
新兵達には酷だが、調査兵団に残れる存在であり続けたいのならば、仲間達が巨人に食い潰される姿を目の当たりにしても、取り乱さず対処し討伐ができる精神力を鍛えていかなければならない。
今日はそんな意味でも新兵の実力が試される日だ。
クレアは昨年の事を思い出してはキュッと胸を締め付けられた。
討伐は見事に成功させたものの、仲間たちの息絶える姿とその惨状に一瞬目を背けてしまいそうになったのだ。
今日の夕刻には再会できない仲間がいる可能性も十分あるのだ。クレアは彼らの不安な気持ちは痛いくらいに理解できた。