第36章 奇行種と新兵たちの初陣
「そ、そうだけど…?まさか、他の人に見えたの?」
「い、いや、そんなことないです!ただ、いつもと雰囲気が違っていて…」
こんなに小さな兵士、兵団内ではクレアくらいしかいない。だがさすがにそんな事を言ったら怒らせてしまうだろう。アンドレはクレアに見透かされぬよう、すかさず別の理由を答えた。
「あぁ、この髪型のせいかな?」
クレアは少し横を向くと、結い上げた髪をアンドレに見せてやった。
「さすがに壁外に出るのにあんなに長い髪をなびかさてたら危険だわ。だから壁外調査の日は必ずまとめているの。」
幼い妹のような容姿のクレアでも、結い上げられたうなじからは妙な色気を感じ、アンドレは朝から変な気分になってしまいそうになる。
それに、うなじにつけられた香油がアンドレの胸には切なく香ったようで思わず胸をギュッと掴んでしまった。
「そうだったんですね……だいぶ雰囲気変わっていたので、驚きました…すいません!!」
「そんなのいいよ!ところでこんな早くにアンドレはどこに行くの?」
準備は前日の午後に全て済ませる決まりになっている。何か不備でもあったのだろうか?
「いや…その…なんだかよく眠れなくて、寝付いたと思ったらすぐ目が覚めてしまったんです…だから厩舎に行ってスコールの曳き馬でもして少し落ち着こうかと…」
スコールとはアンドレの愛馬だ。
「そうだったのね…どうか無理はしないで。朝ご飯はきちんと食べてね。」
「あの…クレアさんもこんな早くからどちらに行かれるんですか?」
クレアは軽く手を振ろうとしたが、アンドレからなんとも答えにくい質問をされてしまった。
正直この手の質問にどうやって答えたら良いのかクレアはいまだに頭を悩ませたままだった。
「私は…その…仕事があってね……」
ここから少し進めば幹部棟だ。
今から会いに行くのはハンジか?リヴァイか?
しかし、そらされてしまった視線からかすかな熱っぽさを感じると、それ以上聞くのは野暮だろうと、アンドレは口をつぐんだ。