第35章 そしてリヴァイは考えた
「クレアさん…それって励ましに入るんですか?」
アンドレは苦笑いをしながら顔を上げる。
「ど、どうだろう?でも私は、例えアンドレが壁外調査中に怪我をしても全力で治療するからって伝えたかっただけなの…」
クレアの言ったことを要約すると“怪我をしたら全力で治療するけど、無理な時は苦しまずに殺してあげる”と言うものだ。
それの何処が励ましなのだ。
しかし、それがクレアに課せられた調査兵としての役割。
残酷ではあるが、死地に迷った時、最後に安らかな死を与えてくれるのは、調査兵の中ではクレアしかいないのだ。
そう思うと、アンドレは何となく心が軽くなったのか、曇った表情が徐々に晴れてきた。
「ハハハ、クレアさんも大胆な事言いますね!!」
「そ、そう?」
「でも、医療もこなすクレアさんがそこまで言い切って一緒に壁外調査にでてくれるなら、少し気分が晴れてきた様な気がします。」
「本当に?それなら良かった。」
クレアは自分がリヴァイによって励まされたことを
アンドレにもしてあげる事ができて、内心安堵していた。
アンドレは積極性があり、調査兵団に入ってからもみるみる実力をつけてきている将来有望な兵士なのだ。
初陣で失う様な事があっては絶対ならない。
「クレアさんもこうやって誰かに励ましてもらったんですか?」
「え?!」
その質問に思わずクレアが顔を赤くしてしまうと、アンドレの中のナニかがドクンと脈打った。
こんな分かりやすい反応は反則だと思った事だろう。
「あ、す、すみません…変な事聞いちゃって…」
「あ、ううん、そんなことないよ…大丈夫。私も、あの時は、ある人に励ましてもらえたから翌日の壁外調査では死なずに帰ってこれたんだ…だからアンドレも…そうだと信じてるから…」
無邪気に笑顔を向けるクレアに思わすその小さな手を握ってしまいそうになったが、クレアはおそらくリヴァイの恋人だ。直接何かを見た訳ではないが、新兵達の間ではすっかり噂になっていたのだ。
そう思うと、衝動的にクレアに触れるのはやめろとアンドレの中の本能が忠告をする。
アンドレはグッと拳を膝の上で握ってしまった。