第35章 そしてリヴァイは考えた
やはり甘い物は女同士の仲を深め、張り詰める緊張感をも解きほぐすのだろうか。
甘いジャムがふんだんにぬられたパンを3人で頬張れば、少し気持ちも落ち着いたのか、リリアンは元気を取り戻したかのように訓練の準備に向かっていった。
その様子にクレアもフレイアも一安心だ。
──夕刻──
クレアは訓練の後、厩舎に残り馬具の点検をしていた。デイジーの馬房の前に木箱を持ってきて腰掛けると、鞍や頭絡をすみずみまで点検をする。
すると、クレアが1人になったタイミングを見計らったかの様に声をかけてくる人物が現れた。
「クレアさん…ちょっと、いいですか?」
「え?あれ?アンドレ?」
声をかけてきたのは新兵のアンドレ・シュナイダーだった。
「うん、大丈夫だけど、どうしたの?……ここ座る?」
クレアは突っ立っているアンドレに木箱を渡すと、座るように促してやった。
こうして声をかけられるのは実のところ初めてではなかった。壁外調査の日が発表されてからは、立体機動の使い方や、馬の乗り方などあれこれ技術的なの面で質問されることがたびたびあったが、なんだか今日はいつもより表情が険しい。
どうしたのだろうか?
「す、すみません…」
申し訳なさそうに頭を掻きながらアンドレは木箱に腰掛ける。
「何かあったの?」
一旦手を止めるとクレアは真っ直ぐにアンドレを見つめた。きっと聞いてほしい話があるのだろう。
「あ、あの…訓練兵の時から優秀だったクレアさんでも、初めての壁外調査の前は、怖くなったり、不安な気持ちになったりはしましたか?」
「それは…」
アンドレもやはり不安なのだろうか。
がっしりとした逞しい体型にも関わらず、無茶な居残り訓練をしてる為か、少し疲労が溜まってるようにクレアは感じた。
「アンドレ……確かに、不安でいっぱいになってしまったわ。でも私がそんな不安に襲われたのは、前日の夜だったのよ。しかも突然にね…笑っちゃうでしょ。」
クレアは昨年のことを思い出しながら自虐的に笑ってみせた。