第34章 その数、無制限
かろうじて会話をしているが、クレアの目は段々と瞬きが多くなり、眠そうなのが手に取るように分かる。
このまま眠らせてやろうと布団をかけてやるが、クレアは窓から入り込む朝日を懐かしむような眼差しで見つめると、ポツリと呟いた。
「……何年も前の誕生日に両親から聞いた話なのですが……私は、朝日が登ると同時に産声を上げたそうなんです。」
「………」
「よく晴れて澄んだ朝日を見て、両親は私の名前を“クレア”にしようと決めた…と。…きっと朝日の様に明るい子になって欲しかったんですよね。でも実際に育った娘は友達もできない根暗な女の子で……両親の死はとっくに受け入れてますが…今となっては心配をかけていたであろうと、謝りたくなる時も…あります。」
クレアは少しだけ自虐的に笑った。
「そんなことはない。お前は毎日厳しい訓練に精を出し、ハンジの班で楽しそうに働き、フレイアって友人もできたじゃないか。今では俺が冷静でいられなくなるほどお前は明るくてまわりの人間を惹きつける様になった。きっとお前の両親も遠く離れた所から一安心してるはずだ。」
「そうだといいのですが……」
「当たり前だろ…」
自分には家族なんてものは良く分からないが、クレアがどんなに気鬱な日々を送っていたとしても、愛情を持って育てられていたことに間違いはないだろう。
その証拠に、今は眩しい笑顔で周りの者を惹きつける程の美しい女に成長しているのだから。
リヴァイは後ろから優しく抱きしめると耳元に軽くキスをした。
「…兵長。ウォールマリアは奪還できるのでしょうか?」
更に瞬きの回数が多くなったクレアはうわ言の様にリヴァイに問いかける。
「できるとかできないの話ではない。やるしかねぇだろ。でなきゃ壁の外の世界も、巨人の謎も分からず終いだ。少なくともエルヴィンやお前の上官はそう思ってると思うが?」
「そうですよね……でも……」
「でも…なんだ?」
「できたらウォールマリアの奪還は、私が生きているうちに実現できたらなと思っています。」
「………?」
「そしたら、両親のお墓を建てて、手を合わせる事ができますから……」