第2章 残酷なきっかけ
時間にしてわずか数秒。
何が起こったのか理解できていないクレアの頬に瓦礫の破片が飛んできた。
「いたっ…!」
軽く切れた頬の痛みで我に返り、一瞬機能を停止していた耳に再び轟音が流れ込む。
「いやぁぁぁぁあ!」
「誰か…誰か助けてぇ…」
「きょ、巨人が入り込んできてる!」
それと同時にクレアは走り出した。
両親の無事を確認するために。
走って
走って
走った。
もともと体力のある方に入るクレアだったが、余程動揺していたのだろう。
たいした距離も走っていないのに息が上り、心臓の音はバクバクと耳元でうるさく鳴り響いている。
雨のように降り注ぐ瓦礫を浴びながら、ようやく自宅が見えてきた。
その光景にクレアは目を疑った。
2メートルはあろうかという巨大な壁の破片が、診療所をかねた自宅に見事に命中していて瓦礫の山と化していた。
両親は午後の診療の準備をしていたのだ。
この瓦礫の山の下で息絶えていることは明らかだった。
「お…お父様…お母様…」
もう巨人がそこまできている。
何かを選択している時間はなかった。
「あ…あぁぁ………!ごめんなさい…」
クレアも何かを選択したつもりはなかった。
とにかく今ここでは死にたくない。
その一心でシガンシナ区の内門まで走った。
怪我をして歩けない人、助けを求める人、絶望的な地獄絵図が目に飛び込んできたが、かまうことなくクレアは走った。
怪我人に目もくれず走って逃げてる姿を両親が見たら落胆するだろか。
例えそうであったとしても構わなかった。
何もわからぬまま死にたくなかったのだ。
息が上がって口で息をしていたらガラスの破片が飛んできて口を切った。
巨人に食われたであろう人の残骸につまずき盛大に転んだ。
それでもすぐに立ち上がり走り出そうと起き上がると目の前に血を流した幼い少女が泣いていた。
「あぁ…うぁぁん…!!」
「……!?」
助けてあげたいとか、助けなくちゃとか、考えたわけではない。気づけば幼い少女を右腕に抱えていた。
左腕に買い物かごを、右腕に泣いてる子供を抱えてクレアは再び走り出す。
内門まであと少し、ここでクレアの記憶はぷっつりと途絶えてしまった。