第34章 その数、無制限
両手いっぱいのフリージアを抱えながらクレアは笑顔で宿屋に向かい歩いている。
その足取りはとても軽やかであったのだが、クレアは川辺の方を見ると、突然にその歩みを止めてしまった。
「どうしたんだ…?」
「兵長、本当にキレイな川ですね。あっ!魚!」
確かに水は澄んでいて、底の砂利まではっきりと透けて見えている。水面は太陽の光が反射して七色にキラキラと輝いていた。
だからと言って、何だというんだ…?
「私、ちょっと入ってみたいです!!」
「は?!」
リヴァイはまさかの発言に何を言い出すんだと顔をしかめたが、そんな事お構いなしと言った風にクレアは片腕に花束を抱え直すと、反対の手でショートブーツと靴下を脱いで川に入って行ってしまった。
「おい!」
「兵長ー、冷たくて気持ちいです!」
バシャバシャと足で水を蹴りながら無邪気にはしゃいでいるクレアを見れば何も言えなくなってしまう。
リヴァイはスカートの裾をつまみながら水と戯れるクレアを川岸で愛おしく見つめていた。
「調査兵団の敷地内にもこんなキレイな川があったらいいのに……」
「そしたら夏の訓練の後はみんなで水浴びとかできますよね!」
「あっ!また魚!捕まえられるかな。」
「…………………」
なんやかんやと独り言を言っているクレアを黙って見ていたのだが……
「……兵長?!」
突然名前を呼ばれた……が、その瞬間……
──パシャッ──
「兵長も一緒に入りませんか?!」
クレアはリヴァイめがけて川の水をかけると、満面の笑みで水遊びのお誘いをしてみせた。
「!?」
ほんの一瞬の出来事だったというのに、リヴァイにはかけられた水が太陽の光を吸収して無数の光輝く雫となり、クレアの目の前に留まっているかの様な錯覚に陥った。
そしてそれらがスローモーションの如くゆっくりと向かってくれば、クレアの手の肌から放たれたその雫は優しくリヴァイの頬に触れ濡らしていく。
それはそれはとても心地良くリヴァイの頬を伝っていった。