第34章 その数、無制限
気を利かせたダスゲニーに少し後ろ髪を引かれながらも、リヴァイに「行くぞ」と声をかけられたため、クレアは厩舎に背中を向けて小走りに追いかけた。
サクサクと乾いた地面の田舎道をただ2人で歩く。
こんな何も無い田舎道をボンヤリと2人で歩くなど初めての事だった。
そもそも恋人関係になってから2人で外出をするのも初めての事なのだからそんなのはあたり前の事なのだが。
少し手持ち無沙汰に感じたリヴァイは、後ろをついてきているクレアの手をそっと取ってみた。
恋人なのだ。手を握ったって文句はないだろう。
「!?」
手を取ると同時にお互いの指を交差させるように握り直す。すると、その手は一瞬にして汗ばんでしまった。
「何だよ、嫌だったか?」
「い、いえ……なんだか緊張してしまって…」
クレアは汗ばんだ手でもしっかりリヴァイの手を握り返した。
横眼でクレアの顔を見ればボンネット帽でよく見えなかったが、口元が緩やかにカーブを描いている様に見えた。きっと嬉しかったのだろう。
よくよく考えれば自分もクレアもあまりぺらぺらと話すことはない。まぁクレアが自分に合わせてくれているだけなのかもしれないが、今まで過ごしてきた中で、無言の状態が気まずいと思ったことなど一度もなかった。
クレアはいつだって自分が淹れてほしい時に紅茶を出してくれ、欲しいと思った時に必要な書類をさっと持ってくる。
それとは逆にクレアが寂しいときや困っている時などは黙っていてもすぐに自分は気づくことができるし、今だってそうだ。手を繋いで歩ける事を喜んでいるのが手に取るように分かる。
黙っていても楽しい、嬉しいと、そんな風に思い合える関係がリヴァイはとても心地良かった。
できることなら兵士であることを忘れ、ずっとこうしていたいとさえ思わず考えてしまう程にだ。
どうかクレアも、同じ気持ちであって欲しい。
リヴァイはサクサクと足を進めながら思わず心の中で呟いた。