第34章 その数、無制限
「……………」
クレアは黙ったままだった。
そしてまた別の品種と思われる苺を口に入れる。
「………………」
またも何も喋ろうとしない。
口に合わなかったのだろうか。
しかし、また別の品種の苺を口に入れて飲み込んだと思われる瞬間。
クレアはゆっくりとリヴァイの方を見上げた。
「兵長!!…とっても美味しいです…ありがとうございます…私はこんな贅沢をしてしまって罰が当たったりしないでしょうか?」
なんだよ、美味いのかよ!驚かせるな…
若干目を潤ませながら感動で打ち震えているクレアにリヴァイは苦笑いを浮かべて軽くため息をついた。
「誕生日くらい贅沢しても罰は当たらないだろう。」
こいつはそこそこ裕福な家庭で育ったくせにいちいち喜ぶ沸点が低い。
きっと俺がやれば川辺で拾った石ころだって、玩具の宝石だって喜んでしまうんだろうな。
そんなヤツだ…
でも今日は年に一度の誕生日。
普段厳しい訓練に夜遅くまでの仕事。挙げ句に恋人らしい時間も作ってやれていなかったんだ。
これくらいの贅沢など、贅沢のうちに入らないのに、こいつは罰が当たらないか心配する始末。
まったくどこまで可愛いと思わせれば気が済むんだ。
「兵長もこっちにきて一緒に食べましょうよ。」
ニコニコと太陽よりも眩しい笑顔を向けられてしまえば断われるはずもない。
リヴァイは促されるままにクレアの横にしゃがんだ。
「これ、少し小ぶりですがすんごく甘いです。こっちは甘みと酸味が絶妙です。そっちは酸味が強いですが、サッパリとしていてクセになります。」
クレアは今食べた苺達の味の感想を得意満面に説明をした。
リヴァイもいくつか食べてみたが、自慢のハウス栽培というだけあって、その味はどれも新鮮で美味い。
甘い物が得意ではないリヴァイでも果物の新鮮な甘みは別物だったようだ。
美味しそうに食べるクレアをよく見れば、冬眠前に必死に木の実を集めて頬袋に詰め込むリスの様に見えてしまい、リヴァイは正直面白くてしばらく見つめていた。しかし、いつまでたっても食べる速度が変わらない。
この小さな身体のどこにそんなに入るのかと疑問に思ったリヴァイは、一生懸命に苺を頬張るクレアの口元をつつきながら声をかけた。