第31章 それは奇行種が決めること
だが相手は人類最強のリヴァイだ。
最初から叶わぬ想いなら伝えぬままでもよかった。
リヴァイがずっと独り身であるのなら、自分は清く清廉な想いを抱き続けることができるのだから。
リヴァイの執務室に押しかけては惨敗してくる女兵士を横目に、清い想いで身を固めていたカオリナイトはその度に優越感に浸っていた。
自分のこの想いは正しい、そう信じて疑わなかった。
しかし、それは長くも続かず、脆くも崩れ去ることになる。
そう、最初は小さな噂からだった。
──早朝にリヴァイの執務室を出入りしている兵士がいる──と。
その兵士の名前は新兵のクレア・トート。
新兵でありながらあのハンジの班に配属されて、訓練ではずば抜けた才能を披露してくれた。
ハンジの班に所属とあって、自然とリヴァイと一緒にいる所がやたらと目に付き、正直心持ちは悪かった。
だが、才能がどれだけあろうと、こんな見た目も体型もガキ臭いクレアをリヴァイが相手にするとは到底思えなかった。
しかし、決定的に心を掻き乱されたのは昨年の秋の壁外調査後だ。
怪我をしたクレアはリヴァイの副官を務める事になったのだ。ずっと副官を置かなかったリヴァイが臨時とてクレアを側に置くのを拒まなかったのだ。
リヴァイが自らその才能を評価し、自身の班員に指名をしたペトラに対しては特に何も感じたことは無いのというのに、カオリナイトはクレアの存在がやたらと勘に障る様になった。
ペトラがリヴァイに対して抱いているのは尊敬だ。
しかし、クレアはリヴァイに対して、尊敬以外の特別な想いを寄せている様に感じてならなかったのだ。
それは紛れもなく女の嫉妬だ。
初めてカオリナイトはクレアに対して嫉妬という感情を自覚した。
そんな中で先月の壁外調査だ。
行方不明になったクレア一人のために兵士長が単独で捜索にあたり連れて帰ったとなれば、もう自分の感情をコントロールする事などできなかった。
今まで憧れ慕い続けたリヴァイが、他の女のものになるなんて当然考えられない。ましてや遠くない未来に、その女の為に無茶をし命を落とすなんて事が起きれば自分は正気ではいられなくなるだろう。
危険因子は早急に摘んでおかねばと思い企んだ結果が今回の事件だった。