第30章 奇行種、異変
大浴場の清掃は終了したばっかりの様で浴槽に湯は張られてなかった。
しかし、クレアはこの後昼食を食べて午後の訓練に向かわなければならないため、シャワーさえ浴びれれば十分だった。
ザァァァァァァァ……
「うぅ……いったぁい……」
まだまだ生傷状態の手足に、たった今落馬の衝撃でできた腕や太ももにかけての擦り傷。さらには右頬にも擦り傷を作るというおまけ付だ。
どこに湯がかかってもしみて痛い。
でも、全身の傷が痛めば痛むほど、明らかになる。
カオリナイトは徹底的に自分をこの調査兵団から…リヴァイの元から引き離すつもりなのだろう。
風呂場での件も、窓ガラスが割れた件も、謎の転倒も、証拠はないが、カオリナイトが関係していると思って間違いないだろう。
馬具に細工をして大怪我を目論んでいたあたり、相手は本気の様だ。
それにもう今頃、ハンジがリヴァイに全てを話しているだろう。リヴァイは何と言うだろうか…自分はこの問題にどう向き合って、どう答えを出さなきゃいけないのか、未だに導き出せていなかった。
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時同じくして大浴場の入り口、辺りを警戒しながら女湯に入ろうとする人影が1つ。
「おい、待てよ。こんな昼間っから風呂かよ?!」
男湯の入り口の影に隠れていたリヴァイが声をかけて引き止める。女湯に入って行こうとしたのは1人の女兵士だ。リヴァイの語気に怖気づいたのかこちらを向こうとしない。
「こんな所で何をやってる。そしてその手に持ってる物は何だ。」
ハンジから話は聞いてきた。
内容はリヴァイの思っていた通りだった。
クレアは1人で風呂に向かったのだ。ここで待っていればまた犯人が何かを企み仕掛けてくるはずだと踏んでいたのだが、見事に予想的中だった。
手に持っている物の中身など聞かなくても大体分かる。小さめの麻袋だ。
きっと虫の死骸か、馬のボロでも持ってきて、タオルと着替えにぶちまける魂胆だったのだろう。
このまま顔を見せぬまま走って逃げて行くだろうと思ったが、女兵士はゆっくりとリヴァイの方を向いた。