第30章 奇行種、異変
「え、えと…馬具点検は壁外調査の前後と、それ以外にも時間があればしています。最後にしたのは2週間程前です。」
「そうか…」
すると、リヴァイはデイジーの横に落ちている物を抱えて2人の前まで持ってきた。
「こ、これは……」
リヴァイが抱えていた物。
それは切れた腹帯と右側の鐙(あぶみ)が取れた鞍だった。
「なに……これ……」
よく見ると、腹帯は鞍と接続するベルトとの金具の境目で切れている。
そして鐙も革が破れた訳ではなく、縫い目の部分が切れて脱落したみたいだ。
一見経年劣化の様だが、普段から点検を怠っていないクレアの馬具であるならばこれは確実に人為的に細工をした物だ。
「デイジー……」
デイジーはきっと気付いていたのだ。
馬具の調子が悪いことに。
思い返せば鞍を乗せた時から様子がおかしかった。
胸を押してきたり、蹄洗場から出ようとしなかったり、走る速度を上げるのを拒んだり……
あのままデイジーが命令通りに最高速度を出していたら……あの速度で落馬をしていたら…きっと怪我では済まなかっただろう。
「ごめん…ごめんねデイジー。私、デイジーの伝えたかった事に気付かなかった…」
泥だらけになった身体をフラフラと起こしデイジーの額を撫でてやった。
「コイツに助けられたのは2度目だな。後で褒美でも持っていってやれよ。最高速度の最中に落馬してたら骨折じゃ済まなかったかもしれないからな。」
「はい……」
「それにしても、デイジーは敏感だね。コレ、多分縫い目に僅かな切れ目を入れて、すぐには破損しないように仕組まれていたんだよ。ちょうど訓練が佳境に入る辺りに壊れるようにね…悪質だな。」
ほつれた縫い目の腹帯をギュッと握り締めながらハンジは怒りをすんでのところで押さえているようだった。
「とにかくお前は先に訓練引き上げろ。怪我がないなら風呂に入って昼飯に行け。こっちもそろそろ訓練終了だ。」
「クレア、デイジーは私が手入れしとくから早くお風呂行っといで!」
「す、すみません…宜しくお願いします。」
クレアは敬礼をすると、力なくトボトボと兵舎に戻って行った。