第30章 奇行種、異変
再びデイジーに乗るが、ハンジ達は大分遠くまで行ってしまっていた。
すると、振り返ったハンジがこっちを見て手を振っている。
おそらく「早くー!」と言っているのだろう。
「ほら!ハンジさんが呼んでる!急ぐよ!」
クレアがひと蹴りすると走り出すが、なかなか速度を上げてくれない。
昨夜雨が降ったせいか地面は所々水溜りができているが、こんな事で走りたくなくなるほとデイジーはヤワではない。
これ以上ハンジ達に心配をかけたくなかったクレアは思わず声を上げてしまう。
「デイジー!お願い、急いでよ!」
ありったけの力で腹を蹴飛ばすと、少し驚いたデイジーだったが頑なに命令に従う事を拒んだ。
「もう…どうしちゃったのよ…」
クレアは仕方なくそのままの速度で走らせるしかなかった。
しかし、ハンジ達の顔が徐々に近づいてきたその時だ。
──ガチャンッ──
「!!!!!」
何かが破損した様な音と同時に、クレアの視界は右側に横転すると、水溜りの地面が目に飛び込んできた。
──ドンッ──
──ビヂャッ──
突然の出来事に受け身もとれずクレアは水溜りにまさかの落馬をしてしまった。
「うぅ……いったぁ……」
右半身を強打してしまい、一瞬うずくまるが、幸い骨が折れたような激痛は襲ってこなかった。
「おい!クレア!」
「クレア!?大丈夫?」
クレアの落馬に気づき飛んできたのはリヴァイとハンジだ。
「ちょっとクレア、何があったの?」
ハンジがクレアを抱き起こすと、怪我が無いか確かめるように全身を触る。
「す、すみません…多分怪我は無いと思うのですが、私にも何が起こったのかよく分からなくて…」
怪我はなさそうだが右半分が泥水だらけになってしまい、ひどい有り様だ。
すると、デイジーの様子を見ていたリヴァイがクレアに問いかけてきた。
「クレア、デイジーの馬具を点検したのはいつが最後だ?」
いきなりなんでと思ったが、馬具を点検したのはつい最近の事だった。クレアは記憶の通りに答えた。