第30章 奇行種、異変
しばらく兵舎の屋根の上で1人考えていたが、何も答えなど出なかった。
兵長が好き…
ハンジさんが好き…
フレイアが好き…
団長も好き…
過酷な運命を強いられるが、自分を変えてくれたこの調査兵団という組織だってクレアは嫌いではなかった。
しかし、リヴァイを好きでいることで、全てに迷惑がかかり組織の存続にも多大な影響を与えてしまうと言われてしまうと、やはり自分がリヴァイの恋人になるなんて、始めからおこがましいことだったのだろうか…
だからといって今更リヴァイと別れるなんて考えられなかった…
でもその願望自体がこの組織の害なのだ。
もう頭の中はグチャグチャで正しい答えなど導き出すことなど出来なかった。
クレアはデイジーを蹄洗場まで連れて行くと急いで馬装をした。
しかし、クレアの心を察したのだろうか。
鞍を乗せて腹帯を締めていると、いつも大人しいデイジーが少しソワソワと落ち着きをなくしている。
「ご、ごめんねデイジー……これから訓練なのに。しっかりしなきゃね!」
でもデイジーはクレアの胸を鼻でドンと押してきた。
「…怒ってるの?」
クレアをじっと見つめる大きな瞳からは怒りの感情は感じられなかったが、何か言いたげな目をしていた。
クレアは兵服のズボンのポケットに手を入れるが今日は朝食を食べていない。当然食堂にも行っていない。残念だがデイジーに食べさせてあげられそうな野菜は入ってなかった。
「しまった…本当にごめん!明日の朝野菜がでたら必ず持ってきてあげるから!」
クレアは額を撫でながら謝り、訓練場に向かおうとしたが、デイジーは止まったまま動こうとしない。
「デイジー?ほら!行くよ?」
手綱を引っ張るとやっとのことで、デイジーは重々しくも歩きだした。
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クレアはなんとか頭を切り替え騎乗訓練は順調に集中できていたが、後半にさしかかるとなんだかデイジーの様子が少しずつおかしくなってきてしまう。
「……どうしたの?」
デイジーはクレアが加速の命令をだしても速度を上げようとしない。
「脚痛いの?」
クレアは一旦下馬をして脚の様子を診るが、特に腫れてはいない様だった。