第30章 奇行種、異変
クレアの洗髪を終えると、ちょうど新兵が1人、隣のバスチェアに腰かけようと声をかけてきた。
「フレイアさん、クレアさん、お疲れ様です。ここいいですか?」
彼女の名前はリリアン・カートン。
ミケ班の新兵でフレイアの後輩だ。
「あ、リリアン!お疲れ!どうぞ座って。」
リリアンは訓練兵団ではギリギリの所で上位10以内を逃してしまったのだが、もともと調査兵団希望をしていて、立体機動の腕前は申し分なく、討伐補佐を得意としていた。
見た目もフレイアのようにスラッとしていて、いつもブラウンの髪をポニーテールに結っているのが印象的だ。
身体を洗い、3人で湯船に浸かるとクレアの手足の包帯から血が滲んでいるのにリリアンは気づく。
「クレアさん…大丈夫ですか?」
「あ、ご、ごめんね…!びっくりするよね…」
フレイアはクレアが受けている嫌がらせの件についてはリリアンには話していなかった。
しかし、リリアンは気づいていた。
入団してすぐの合同訓練でのクレアは、身体に傷ひとつつける事なく縦横無尽に森を飛びまわっていた。
それがここ数日で顔に両手に包帯を巻き出したのだ。
少し頭の働く人間ならすぐにおかしいと気づくだろう。
だからこそ、リリアンは思い切って今しがた目撃したことを2人に話すため口を開いた。
「あの…今私が大浴場に向かう時、女湯からバケツを持って走って出ていく人を見たのですが…それってクレアさんのその傷と関係…ありますか?」
「「え?!」」
2人は目を合わせて驚く。
「ねぇ、それって誰だったかわかる?!」
フレイアは思わず声を荒げてしまう。
「すみません!少し遠目だったので、顔までは分からなかったのですが…1人が入り口に立っていて、中から1人出てくると走って行ってしまいました。」
「……………………。」
やっぱりこれは自分に向けられた嫌がらせで間違いないのだろうか。
湯に浸かっているにもかかわらずクレアの背筋には思わず悪寒が走る。
「クレア…」
フレイアが事のあらすじをリリアンに話すと、風呂を飛び出した。クレアとリリアンも後に続いて脱衣所まで行くと、やはりクレアのバスタオルと着替えは濡れていた。