第6章 調査兵団入団
香油の種類は色々とあった。
バラやクチナシ、ラベンダーといった花や、ユーカリ、ミントなどのハーブ系はもちろん、みかんやいちごなどの果物やヒノキなど、珍しい香りもあった。
どれもいい香りで迷ったが、ある瓶のラベルに書かれている名前がふと目に止まった。
「あ、キンモクセイ…」
キンモクセイは秋に入ると咲くオレンジ色の小さな花だ。花の咲いてる期間は長いが、深く香る期間はとても短い。
これはクレアの母親が好んで使っていた香油だった。
母は大事な思い出の香りだといつもつけていたが、実はクレアはこの香りが好きではなかった。
でも改めて成長したクレアがかぐと、母亡き今、そして調査兵団に入った自分にはとても似合っているように感じる。
クレアはキンモクセイの香油を買うことに決め、薄い金色の瓶とともに、店主に注文をした。
「お、決まったのかな?まいどあり。もし使い終わったらこの瓶を一緒に持ってきてくれ。そしたら追加の香油は割引で売るから、忘れないでな!」
「ありがとうございます、大切に使います。」
おじぎをしてから店を後にした。
生まれて初めての高価な買い物だったが、財布にはまだだいぶ残っている。
兵舎の近くまでもどり、喫茶店で休憩することにした。
店に入り、温かいコーヒーを注文すると、座席にはつかず、入り口の壁によりかかりながら飲み始めた。
少し日が傾き始めているが、まだ人通りは多く、街は賑わっている。
自分のために高価な香油を買い、あまり出回らないコーヒーを飲みながら街中をぼんやりと眺めるなど、毎日厳しくも充実した訓練兵時代とはまた違った、なんとも言えない贅沢な時間だった。
買ったばかりの香油を大切に抱えながらコーヒーを飲んでると、遠目から1人の男と目が合った様に感じた。すぐにそらしたが、その男はあろうことかクレアに何かを感じたらしく、こちらにむかって歩いてくる。
…え!こっちにくるの?
クレアには見覚えのない男だ。
気づかないふりをしたが、確実にこちらに近づいてくる…何だ?金でも取られるのであろうか…
どうすることもできぬままその男と向かい合わせになった。
逃げようかと思ったその時…
「よぉ、奇行種…こんな所で何やってるんだ。」