第29章 103期入団とハンジ班の奇行種
「二度と目覚めなくなる?ハッ、そりゃ結構な事だ。妄想だろうとお前が他の男の頭の中でいいようにされるのは胸糞悪いからな。」
「そ、そんなぁ……」
「とにかく頬も赤い、しばらくここで酔いを覚ましてから行け。いいな?」
「…わかりました。」
頬が赤くなったのは明らかにリヴァイのせいなのだが、今は何を言っても通じないだろう。
それに量は加減したといえ、確かに酒も飲んでいたのだ。クレアはリヴァイの言ったとおりにここで少し酔い覚ましをしてから仕事に向かうことにした。
少し冷たく、しかし、少し温かくも感じる春の風が大地の香りを運びながら2人の間を穏やかに、そして静かに流れていく。
リヴァイの肩に頭を預けて空を見上げれば、満点の星空だった。
「今日は雲がなくて、星が綺麗ですね。」
「……そうだな。」
星空を見上げて美しいと無邪気に呟くクレアの方がよっぽど美しいと、リヴァイは思わず言ってしまいそうになった。
雪が溶け、新しい命が芽吹き始める春は、色んな意味で人の心を惑わすという。
そんな歯の浮いた様な照れくさい事を言ってしまいそうになるのも、全てはきっとこの心地良い春風のせいだろう。
「でもやはり、壁外で見た星空の方が美しかったです。壁内の閉鎖的な空間では、どうしても美しさも閉鎖的なものになってしまうのでしょうね…私は、残念でなりません。」
クレアは小さくため息をつくと長い睫毛を上下に揺らした。
「…………」
壁内の人間の殆どがこの3重の壁を絶対安全と信じて疑わず今まで生きてきたが、ここにきてウォールマリアは巨人によって破壊されてしまった。
それでもなおこの壁の存在が全てだと信じて疑わない奴らが殆どだ。
調査兵団は税金の無駄遣いと罵るものも多い。
こんな狭い壁内の何処が快適なのか一人一人に聞いてまわりたいくらいだ。
そう考えると、クレアの美的感覚と自分のソレとに相違がないことにリヴァイはひとまずの安心をする。