第27章 リヴァイの想い
途端に悔しくやるせない想いがリヴァイの身体中から堰をきったように溢れ出す。
「畜生……!!」
盛大に下打ちをし、奥歯を噛みしめながらドンッと拳で木の幹を叩いたその時だった。
ひんやりと静かな風がふき、周りの木々がサワサワと小さな音を立てた。
「………………」
なんてことない風だ。
風なんてどんな静かな夜にだって吹く。
ただの自然現象だ。
「……………!!!」
しかし、リヴァイには微かだが、この自然現象が、自然現象ではないものを運んできたことに気づく。
「これは……」
まだ冬の気配を残す冷たく静かな風が運んできたものは、3月の大地には存在しえない花の香り。
「キンモクセイか…」
ほんの微かだ。
ほんの微かだが、ここには存在しえない香りをこの風は運んできた。
それは、間違えるはずもない、愛しい恋人が好んで使っているキンモクセイの香りだ。
「この風はどっちから吹いていやがる!!」
全身の神経を集中させ、静かな風が吹いてくる方向に逆走するように歩き出した。
歩いても歩いてもキンモクセイの香りは途切れない。
すると、あるものが目に飛び込んできた。
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もう……どれくらいの時間がたっただろうか……
クレアの小さな身体はカタカタと震えて、その冷たい空気に、息を吸うのも拒みたくなる程冷え切っていた。
この冷え込む状況は小さなクレアの体力をみるみると奪っていく。
こんな事になるのなら自力で行けるところまで自分の足で走った方が良かったのだろうか?
何が良かったかなど今更わかるわけもないが、今のクレアには刻一刻と「死」というものがリアルに近づいてきている。
その証拠に少しずつ瞼が重くなってきた。
「ダメ……眠っちゃ…ダメ…落ちちゃう…」
下まで降りようかとも考えたが、目が覚めたときに目の前に巨人がいたら洒落にならない。
また、眠ったまま巨人のエサになるのも絶対に嫌だった。
クレアはかぶりを振りながら必死にこの死と隣り合わせの眠気を追い払おうとした。