第25章 想いの果てに
「モブリット1人か?珍しいな?」
「は…はい…」
「ハンジは一緒ではないのか?」
「分隊長は恒例の燃料切れを起こしてしまったので、ちょっと1人で飲みにでていました。」
実際に最初は酒場にいたのだから嘘はついていない。
「またか…モブリットにも苦労かけるね。この間は休日に荷物持ちをさせられていたみたいだったが、ちゃんと休めているか?」
…休みなど、もうまともにとった日などいつだったか覚えていないが、それが苦痛に感じたこともなかった。
「休めているかどうかは、自分自身でも不明ですが、もう慣れている事は確かですので、どうかご心配は無用に願います。」
「ハハハ、そうか。」
エルヴィンは愛馬シェリルの手綱を引きながらモブリットと並んで歩き出す。
「そういえば団長はこんな遅くまでどちらに?」
エルヴィンは兵服だった。
内地にでも行っていたのだろうか。
「今日は秋に予定していた訓練兵団への勧誘講義に行ってきていたんだ。昨年の秋は壁外調査で膨大な被害が出ていたから中々訓練兵団まで顔を出すことができなくてね。結局今日になってしまったよ。」
勧誘講義……
調査兵団への勧誘を兼ねて行われる講義。
一昨年は確か自分がエルヴィンの代理を務めるはずだったがまさかのハンジに横取りをされ、キース教官と共に講義室から引きずり出すという今思い出すだけでも疲労が込み上げるような散々な出来事があった。
それから翌春にクレアがハンジ班に入団し、まもなく1年がたとうとしている。
“まとも”という言葉から程遠い場所にいつも君臨しているハンジに、“まとも”という基礎はあるが、基本奇行種なクレア。
そんなハンジ班の中で過ごしてきた1年はなんとなくだがあっという間に感じた様な気がする。
「そうでしたか、お疲れ様です。こんな雪の中わざわざ団長が出向いたんです。1人でも多くの調査兵団希望者が増えるといいですね!」
「あぁ、そう願ってるんだがな。」
そんなこんなで話をしていたらあっという間に兵舎に到着だ。
「引き止めて悪かったねモブリット。私はシェリルの手入れがあるのでここで失礼するよ。ハンジも燃料切れなら今夜はゆっくり休んでくれ。」
「は、はい。お疲れ様でした。」
モブリットは私服だったが、敬礼をしてから兵舎に戻っていった。