第25章 想いの果てに
エルヴィンは愛馬シェリルの身体を拭いてやり、濡れた脚も丁寧に拭いてやりながら、少し安堵していた。
安堵とは、モブリットに対してだ。
隣に並んで歩いていたモブリットからは自分がミケと通っている娼館の香と同じかおりがしてきた。
その中に微かに混じる甘い香りはおそらくタリアが愛用しているものに違いない。
エルヴィンがタリアを指名したことはなかったが、彼女から薄く漂ってくる甘い香りはとても印象的で、深く記憶していた。
もちろんエルヴィンも初めてタリアとあった時は驚いた。それと同時に考えたのはモブリットの事。
モブリットの気持ちもハンジの性格も知っていた為、なんとか2人を出会わせてやりたかったが、なかなかうまくいかず、半ば諦めていたのだ。
どういった経緯で2人が巡り合ったのかはただ想像するしかできなかったが、いつも頑なに溜め込んでいたモブリットに、慰めになってくれる場所ができたならそれでいい。
気にかけていた事が自分の知らないうちに解決していたことに、エルヴィンは少し心を軽くしていた。
ブラシをかけてやり、蹄油を塗ると、冷えないように毛布生地の馬着をかけてやる。
「なぁシェリル。モブリットとタリアが巡り合ってくれたのは喜ばしい事なんだが、そうなると、私とミケはどうしたらいい?今後、店の入り口でばったり会ってしまったら気まずくないか?」
真面目な顔でとんでもない事を言い出すエルヴィンにシェリルは頸を振り、「ブルンッ!」と鼻を鳴らして見せた。
それはまるで「セクハラよ!」と言いたげな様子だ。
「ハハハ、シェリルは厳しいなぁ。」
そんな釣れないシェリルを馬房に戻すと、冷えた手をさすりながらエルヴィンも寒空の中兵舎に戻っていった。