第25章 想いの果てに
「……あぁ。その時はまた宜しく頼む。」
娼館通いを自分がする事になるなんて今までの自分が知ったら卒倒するだろう。
でも、今は純粋に否定をする気持ちが沸き起こってこない。特に必要だと自覚した事などなかったが、おそらく今の自分に必要だったのは、心の逃げ場であったのだろう。
ハンジにそっくりな女を抱いて“疑似体験”をし、溜まった欲望の器が空になったのは事実ではあるが、実際に娼館での時間を終えてみると、タリアの言葉の数々に大分救われた気がする。
それは、また来てほしいと言われた言葉に素直に応じたくなってしまう程に。
タリアはモブリットを裏の出口まで案内すると、次来る時のための合言葉を教えてやりその背中を見送った。
きっと、きっとまた自分の所に来てほしい。
モブリットは逞しい調査兵であるのに、ハンジと呼んでいた想い人に向けられた慕情はとても切なくて儚かった。それは今にも崩れ落ちてしまいそうな脆さも孕んでいるようにタリアは感じてしまったのだ。
叶わぬ想いが張り詰め爆発して壊れてしまう前に、また自分にぶつけに来てほしい。
客の男にこんな事を思うなんて初めての事。
タリアは胸の辺りをギュッと掴んで俯いてしまった。
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1日降雪が落ち着いていたためか、街中は雪掻きされた道には、新たな雪が積もることがなかったため、歩きやすい帰路であった。
白い息を吐きながら歩いてるモブリットであったが、心の中に入り込む新鮮な空気がとても心地よくも感じ、不思議にも余り寒くは感じない。
月明かりが足元を分かりやすく照らしてくれるような澄んだ夜空の中モブリットは兵舎へと向かうが、間もなく兵門が見えてきたあたりで、馬の蹄の音と共に思いもよらぬ人物に声をかけられた。
「……モブリットか?」
顔を除きこみ、その呼んだ名と顔が一致すると、その人物は馬を止めヒラリと飛び降りた。
「エ、エルヴィン団長?!」
モブリットを呼び止めたのはエルヴィンであった。