第25章 想いの果てに
自分でもとんでもない事を言った自覚はある。
娼館でこんな行為を許すなど、何が何でもあってはならぬ事。
しかし、モブリットの想いに心を打たれてしまった女には、どうしてもその一部だけでも苦しみを共有してやりたいと思ってしまったのだ。
自分は恋も愛も知らない。
知らぬのだから、憧れすら抱いたこともない。
そんな事を知る前に娼婦となりこの年まで、毎日ただ淡々と叶わぬ想いに苦しむ客の慰めになってきた。
中には純粋に娼館の娼婦として楽しんでいく者もいたが、この店の特性柄そんな客は少数派だった。
毎晩毎晩、自分の名とは違う女の名を叫んで果てる憐れな男たち。その全ての男たちに何も特別な感情など持ったことなどなかった。
だが、調査兵団の兵士としていつだって死と隣り合わせなモブリットには、伝えることすらもできぬ想いを抱えたまま死んで欲しくはなかったのだ。
少しでも心が癒えるのならばと思った女だったが、頭の悪い娼婦の自分では、こんな提案くらいしか思いつかなかった。
「ねぇ…お願い……大丈夫だか…ら……早く…」
「そ…そんな………」
もう問答無用とばかりに女はモブリットの腰回りを足ではさみ退路を塞ぐと首元にも腕を絡ませ、その耳元で最後の攻め言葉を呟く。
「はぁ…あ、あとは、もう…滾る心の命ずるままにしてちょうだい…モブリット…」
「……………クソッ…」
女の攻め言葉に完全にタガが外れたモブリットには、もう退路のない最奥に欲望の果てを注ぐ事しか選択肢はなかった。
「あぁ…!……モブリット!」
「……ぐ……ぶ…分隊長……」
モブリットは我慢に我慢を重ねた射精感を一気に放出すると、ドクドクと拍動させながら女の中に吐精する。
「あ、あぁ……か、感じるわ…モブリット…」
伝えることすらも叶わぬ憐れな男兵士の、儚く彷徨い逝く想いは、たった今、一人の娼婦の中で切なく散り果てた。