第5章 間もなく卒業
ルドロフのケガは順調に回復し、一週間で訓練に復帰することができた。
なかなか自分から話しかけることはハードルが高かったのか、クレアの方からルドロフに話しかけたりするということはなかったが、挨拶をされた時に少し話したり、数回朝食を一緒に食べたりすることはあった。
そうしているうちにあっという間に、102期訓練兵の卒業の日がやってきた。
卒団式のあとは、皆荷物をまとめ、それぞれの兵団に向かう。
駐屯兵団と憲兵団は用意された馬車で。
調査兵団は愛馬に乗って騎乗して兵団へとむかう。
調査兵団希望の者は入団後の壁外調査で支障が出ないよう、訓練時に乗りなれた馬と共に入団することが認められていた。
クレアも愛馬デイジーを蹄洗場につなぎ馬装を始めた。
そして馬装が終わる頃、ルドロフから声をかけられた。
「クレア、今いいか?」
「ルドロフ?なに?」
「本当に調査兵団、行っちまうんだな…」
「そうよ、ルドロフだって。憲兵団、おめでとう!」
卒業成績、クレアはみごと首席
ルドロフは3位での卒業だった。
「あのさ…コレ、たいしたものじゃないけど、受け取ってくれ。」
差し出されたのは薄いピンクの紙でラッピングされた小さな包だった。
「…これは、なに?」
「こ、これは、この間、助けてもらったときの礼だ。お前の兵服も汚しちまったしな…」
「これをわざわざ私に?こんなのよかったのに…あけていい?」
「あ、あぁ…」
中身は花の形をしたクッキーだった。
砂糖を使った菓子などはなかなか値段のするものだ。
小遣い程度しか支給されない訓練兵にとっては高い買い物だったに違いない。
「こんな、高いもの……」
「礼だからな。お前が気にするな。」
するとクレアはおもむろに包からクッキーをひとつとりだすとルドロフに差し出さした。
「一緒に食べましょう。」
「え?俺はいいって!お前にやったもんだからな。」
「私、今まで友達がいなかったからよくわからないんだけど、こういう時は、一緒に食べるのがいいんじゃないかしら?」
まっすぐな蒼い瞳で言われてしまうと、断る理由がない。2人は顔を合わせながら同時に口にいれた。
「おいしい、ありがとう、ルドロフ。」