第5章 間もなく卒業
ホントに鈍感なヤツだな……
ルドロフは苦笑いをしながら諦めたように、頬に添えた手をベッドに置いた。
間もなくクレアは18歳になる。今まで異性や恋などとは無縁に生きてきたため、自身の頬に添えられた手の意味をクレアはよくわからなかった。
窓の外を見るともうとっぷりと日が暮れていた。
ちょうどその時医務室のドアが開き、医師とキース教官が入ってきた。
「留守にしててすまなかったね!ルドロフ君だったかな?気分は悪くないかな?」
「あ、先生。私が応急処置をしました。こちらの報告書にまとめてあります。頭を打った様子もみられたので、そちらの診断もお願い致します。」
「あぁ、クレア君だったね、話はキース教官から聞いていたよ。」
そう言うと、医師はクレアの報告書を確認する。
「うん、うん。応急処置は完璧だね。それでは縫合の具合と頭の様子を診ようか。」
包帯を取り傷口を確認すると、次は頭の傷口を診察した。
「君のお父様はずいぶんと腕のいいお医者さんだったようだね。見事な縫合だ。これなら傷跡もあまり残らないだろう。頭の傷は深くないし、打ち身も心配はいらない。ただ一週間は訓練は休むように。明日また消毒に来なさい。」
「思ったより早く治りそうで良かったわね、じゃあ私はこれで……」
医務室から出ていこうとするとルドロフから声をかけられた。
「クレア!!」
「なに?」
「本当にありがとうな、あとお前の兵服汚しちまってごめん。今度礼をするから…」
ふと目線を下にやるとクレアの兵服はルドロフの血でべっとりだった。
「そんなの気にしないで…じゃあ…」
クレアは医務室をでて自室に戻っていった。
訓練終了時刻はとっくに過ぎていたため、自室に戻ると部屋着に着替え、血塗れの兵服をもって洗濯場に持っていった。
タライにつけ置きをし、汚れをゴシゴシ擦りながら今日1日の出来事をぼんやりと思い返していた。
ルドロフ・アルバート。編入組ではなく、年は確か2つ程下だった。高身長で、少しクセのあるブラウンの髪をしている。
同年代の人とあんなに話をしたのは初めてだったが、嫌ではなかった。
むしろこんな変わり者の自分と仲良くしようなんて言ってくれたことに感謝したいくらいだ。