第5章 間もなく卒業
いつも無表情のクレアが一瞬微笑んだように見えた。
思わずこみ上げてくる想いを伝えそうになってしまう。
でもその時、クレアがルドロフに一歩近づき、右手を差し出した。
「短い間だったけど、こんな私と仲良くしてくれて嬉しかったわ。憲兵団で立派な兵士になってね。」
ルドロフは迷わず差し出された手を握る。
「当たり前だ、お前こそ、死ぬんじゃないぞ。絶対だぞ!」
頼む…死ぬな、絶対に死なないでくれ!
握る手に力が入った。思わず勢いにまかせて抱きしめてしまいそうになる。
「うん…」
自分が行くのは、死亡率の高い調査兵団だ。絶対に死なないなど、確証のできない約束に思わず少し目をそらしてしまった。
「じゃあ、元気でね。」
そう言うと、クレアは愛馬デイジーを連れて集合場所まで行ってしまった。
「……あぁお前も元気でな…」
ルドロフはクレアの背中を追い続けているうちにいつの間にか恋をしていた。
いつも無表情でどこか近寄りがたい雰囲気なのに、訓練では人が変わったような真剣な眼差しをする。
そんなところに惚れてしまったのだろう。
ケガがきっかけで話すようにはなったが、予想通りクレアは鈍感なやつだった。
へたに想いを伝えてギクシャクしてしまうのを恐れて、ついに告白をすることができなかった。
ルドロフ、16才。切ない初恋は想いを告げることなく2人は別々の道を歩むことになった。
一方、クレアはデイジーに跨り、調査兵団本部へと向かい始めていた。
天気は晴天。晴れ晴れとした気候が心地よく、気持ちも高揚した。
いよいよ調査兵団入団だ。
クレアは、やる気に満ちていた。