第24章 いつもと同じで違う夜
分厚い本を開いたままそれを枕にするかのように突っ伏して眠っていた。
「ハンジさん、最近はカマキリの生体について調べてたみたいですが……」
「あぁ…この間の休日は昆虫やカマキリの生体についての本を買いに行くのに付き合わされたんだ。ものすごい量だったよ。そして、雪の中荷物持ちをさせられた俺も大変だった…」
「まさか、その本、精製が終わった後に、部屋で読んでたんでしょうか?」
「おそらくね……」
「そんな寝てない状態で雪掻きとか、立体機動の訓練とか、ハンジさんのその気力と体力はいったいどこから……奇行種と呼ばれている私にも到底真似はできません…」
「分隊長は知識欲が最優先事項であって、3大欲求や衣食住は二の次だからね。困ったもんだよ…」
「と、とりあえず、ここ片付けましょうか。」
「そうだな。」
ハンジの燃料切れも今では日常の項目の1つになってしまっている。クレアはモブリットと手際よく執務室を片付けると、次は自室に戻る準備を始めた。
「モブリットさん、一通り片付いたと思いますが、後はやる事ないですか?」
「大丈夫だ。今日も遅くまでお疲れ。先に戻っていてくれ。」
「ありがとうございます。ではお先に失礼致します。」
執務室も、ハンジの自室も、モブリットがスペアのカギを持っているため、クレアは先にここを後にした。
さて、気持ち良さそうに眠るハンジを部屋まで送り届ければ今日の仕事は終わりだ。
モブリットは慣れた手付きでハンジを横抱きにすると、部屋を出てカギをかけた。
「………………。」
ハンジの自室まで送り届けるこの僅かな時間。
この時間だけが、モブリットが正当な理由でハンジに深く触れることの出来る唯一の一時だ。
女兵士の中では高身長に入るハンジだが、体格は大柄ではなく寧ろ華奢。しかも抱き上げた時に感じる胸元は意外にも豊満だ。
ハンジの見た目はこの男勝りな性格と兵服がそう錯覚させているのだろう。
実際にハンジの裸など見た事はなかったが、以前一緒に風呂に入ったクレアのよく分からない興奮した感想を思い出せば、自分の予想が間違っていないことが十分にわかる。
クレアはともかく、そんなハンジの秘密を知っている男はどうか自分だけであって欲しい。
柄にもなく今夜のモブリットは少しおかしかった。