第5章 間もなく卒業
「…………………ったんだよ…!!」
「え?!なに!」
「だーかーらー、お前に見とれてたらアンカー出すタイミングずれてバランス崩してこのザマだ。」
「!?」
「お前は気づいてなかったと思うけどな、俺はずっとお前の事見てたんだ。こんなに体格違うのに対人格闘では勝たせてくれないし、馬術でも、立体機動でもいつも先を行かれちまう。今日だって、今日こそは追い抜かしてやるって気合い入れてたんだぜ。なのにお前が目の前から飛び上がって行った瞬間、思わずそのスピードに見とれちまってな、この有り様だ、情けねぇな…」
握っていた手を離すと、ルドロフはバツが悪そうにクシャクシャ頭をかいた。
「私はずっと1人で夢中になって訓練に打ち込んでたから…そんなふうに見てくれてる人がいたなんて気づかなかったわ。」
クレアはとても驚いた様子で答えた。
「やっぱりな、思った通りの鈍感女だ。ところで、クレアは卒業後はどうするんだ?憲兵希望か?」
「ど、鈍感とは失礼ね…えっと私は調査兵団へ進むつもりよ。」
「!?まじかよ?なんでだよ!?お前なら絶対首席で卒業だぜ!?」
「自分の能力と命の限り、やりたいことがあるからよ。」
……ハンジさんの事は話せないけど一応嘘はついてないわ……
「はぁ、そうかよ……」
「そういうルドロフは?」
「俺は憲兵希望だ、入団当時は成績やばかったけど、ここにきて成績伸びてきてるからな、なんとか頑張りてぇ。」
「ルドロフならきっと10以内に入れると思うわ。」
「ありがとよ、お前さ、全然しゃべらないヤツだと思ってたけど、意外に良くしゃべるのな。」
そう言うとルドロフは上半身を起こしてクレアと目線を合わせた。
「え?!」
硝子玉の様な蒼い瞳に吸い込まれるように、思わずルドロフはクレアの頬に手を当てた。
自分の大胆な行動にルドロフ自身も動揺するが、冷静を装い想いを告げる。
「せっかく話をすることができたんだ。卒業まであと少しだけど、仲良くやろうぜ。」
「それって友達になろうってこと?」
「……………ま、まぁそんなところだ…」
「ふふ、友達なんて初めてだわ。」
クレアは初めてできた友人に心踊らせていた。
彼の本当の気持ちに気づくワケもなく…