第5章 間もなく卒業
汚れた布はひとまずつけ置きだ。
再び医務室に戻ると、ハサミで破いたズボンや、脱脂綿等のゴミをひとまとめにする。
汚れたマットレスは洗えない。アルコールを含ませた布巾で消毒しながら叩き拭きをする。
その後、医薬品をそれぞれ種類ごとに棚にしまうと、また外に出て洗濯を始めた。
あらかた汚れが落ち、すすぐと物干し竿に干していく。乾くのはおそらく明日の昼だろう。
赤くなった手をこすりながら医務室に戻ると、クレアは医師に治療の経緯をわかりやすくするために、報告書を書き始めた。
だいたいの報告を書き上げたあたりで、ルドロフが目を覚ます。
「………クレア、いるのか?」
「あ、目覚めた?」
クレアはベッドサイドのイスに腰かけると、ルドロフの顔色を確認し、額に手を当てた。
発熱はなさそうだ。
「気分はどう?まだ麻酔効いてると思うけど、傷痛む?」
「ああ、今はあまり痛みはない。これからまた痛むのか?」
「麻酔が切れれば痛むわ。その時は先生に痛み止めを打ってもらって。私は医者じゃないから何も診断はできないけど……すぐに訓練戻れるといいわね。」
「そうだな…お前がここまで運んで治療してくれたんだ…よな?」
「森を抜けるまでは私が立体機動で運んだけど、ここまではキース教官と運んだわ。あいにく先生は休暇でいなかったから応急処置をしたのは私よ。一応親が医者だったから信用してくれていいけど、あとでちゃんと先生に診てもらってね!」
医者だった…か…。そうかこいつはシガンシナ区の編入組だったな…。
「そうか…わかった。すまなかったな。」
「それにしてもどうして落下なんてしたの?装置に不備でもあったの?」
「……ははっ!痛いところつくな。そいつは恥ずかしくて言えなぇな。」
「どうして……?」
クレアはルドロフの額に手を当てたまま、首を傾げて顔を近づけた。潤んだ蒼い瞳は少し悲しげだ。
ドクンとルドロフの心臓が高鳴り顔が一気に紅潮する。
額に当てられた手を照れ隠しで払い、その手を握り返すと、観念したようにボソボソと話だした。