第5章 間もなく卒業
キース教官が両肩を押さえたのを確認すると、クレアはルドロフの両足を付け、脛のあたりに馬乗りになり固定すると、生理食塩水をかけながらガーゼで患部の土と砂を容赦なく擦り落とし始めた。
「ぐっ!っぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!やめてくれー!」
「ルドロフ我慢して!このままにしとくと細菌感染を起こしてしまう!土を落としてからじゃないと治療できない!」
悲痛な叫び声が医務室に鳴り響いた。
数分後、患部がきれいになった事を確認すると消毒液をかけ、縫合の準備を始めた。
「教官、縫合が終われば処置は完了なので、ルドロフの部屋から着替えを持ってきてくださいませんか?」
キース教官が着替えを取りにでると、クレアはすぐに縫合の準備を始めた。
「ルドロフ、さっきはごめんね、あとは縫合すれば終わりだから、麻酔も使うから安心して。」
「あぁ………頼む……」
力なく答えると、クレアは患部に麻酔の注射を打った。
医者の娘であるクレアの縫合さばきは見事なものだった。20針ほど縫ったであろか。キース教官が着替えを持ってくるころには縫合は終わり、薬が塗られた傷口には包帯が巻かれている最中だった。
「ありがとうございます。身体を拭いて着替えをさせたら隣のキレイなベッドで休ませてあげましょう。」
清拭と着替えを手際よく済ませ、隣のベッドに寝かせると、今度は額の傷の様子を診た。
こちらは深い傷ではなかったため、消毒と塗り薬で処置をするとガーゼをあててテープで止めた。
最後に点滴を施す。感染症予防のために抗生剤を点滴に混ぜる。
これで一通りの処置は完了だ。
あとは医師の帰りを待って、頭の打ち身の診断をお願いするだけだ。
「教官、ありがとうございました。あとの片付けは私がやりますので、訓練の指揮に戻ってください…」
「あぁ、わかった。お前が医者の娘で助かった。何かあったらまた呼んでくれ。」
そう言うとキース教官は医務室から出ていった。
処置で使ったベッドは生理食塩水と血でビチャビチャだ。急ぎの処置だったため、医療器具も散乱してしまった。
ルドロフは落ち着いたのか眠っている。
今のうちに終わらせてしまおう。
クレアはまず医務室の勝手口を開けタライに水をためると、汚れたシーツや布をつけて洗剤を入れた。