第22章 リヴァイ、悔いなき選択 奇行種、困惑
……もし、もし、壁外で自分が行方不明になった時、兵長だったらこの香りで見つけてくれるだろうか……
もちろんリヴァイ班と、ハンジ班は離れていることが多いし、自分が巨人に食べられてしまえば一貫の終わりだ。
それに行方不明になった自分1人のために兵団の誰かが命を賭けて動くとも思えない。
そんな事…そんな事は分かっている。
生きて帰ってこれる保証の無い壁外調査だ。
でも、きっと帰ってこれると、クレアは何か願掛けのようなものが欲しかった。
それにこれは自分を応援してくれている香油屋夫婦から貰ったものなのだ。
クレアは“生きて帰還する”という願を込め、これから壁外調査前には、この香油を塗ってから出立することに決めた。
─きっと兵長が見つけてくれますように─
決して言葉に出すことはできない願いを込めてクレアはリヴァイの執務室に向かった。
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リヴァイは自室でちょうど支度を終えたところだった。
今日はクレアと恋人同士になってから初めての壁外調査だ。不安が無いと言えば嘘になるが、調査兵である以上壁外調査は避けては通れないのだ。
リヴァイは奥歯を噛み締めながらハンカチの入っている引き出しを開けると、ふとクレアから貰っていたハンカチが目に入った。
迷わず手に取ると、クレアが刺繍をほどこした紋章の部分にキスをする。
「絶対に死なせない」
何か考えがあるのだろうか…ジャケットの内ポケットにそのハンカチを入れると、リヴァイはある場所に向かって歩きだした。
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──コンコン──
「おい、クソメガネ、いるか?」
やってきたのはハンジの執務室だった。
「あれ?リヴァイ?壁外調査前に珍しいね。いったいどうしたの?」
ハンジは最後の書類数枚にサインを入れると、リヴァイの方を向いた。
「お前に頼みたい事があってきた。」
「それもまた珍しいね!何?」
「話す前に……おい、モブリット。これから俺はこのクソメガネに兵団の規律を乱すような身勝手でクソみたいな話をする。聞きたくなかったら出ていってくれ。」
鋭い眼光でモブリットを見据えるが、モブリットとてハンジの副官。もはや運命共同体だ。
聞かないという選択肢は無かった。